2021.09.27 議会改革
第22回 議員の職務の公正性と兼業禁止・除斥
1 請負禁止
(1)請負禁止の意義
議員は、①地方自治体、あるいは自治体が経費を負担する事業につき長、委員会・委員、これらの委任を受けた者に対して請負する者やその支配人、②主として同一の行為をする法人の無限責任社員・取締役・執行役・監査役やこれらに準ずべき者、支配人、清算人たることができないとされている(地方自治法92条の2)。禁止されるのは、①の議員個人が当該自治体との間で請負関係にある場合(個人請負)と、②の議員が主として同一の行為をする法人の役員等であって当該法人と自治体との間で請負関係にある場合(法人請負)の二つであるが、これらのうち、個人請負の場合には、重要度にかかわらず請負関係に立つことが禁止されている。一方、法人請負の場合には、「主として同一の行為をする法人」とは、当該自治体等に対する請負が、当該法人の業務の主要部分を占め、その請負の重要度が議員の職務の公正・適正を損なうおそれが高いと認められる程度に至っている場合の法人を指すものとされている(3)。
議員在職中にこれらの業に従事している場合には、議会で出席議員の3分の2以上の多数により請負禁止に該当すると決定したときは、失職することとされている(地方自治法127条1項)(4)。また、公職選挙法104条は、自治体議会の議員の選挙における当選人で、当該自治体に対し請負関係を有する者が、当選の告知を受けた日から5日以内に、その関係を解消した旨の届出を選挙管理委員会にしなければ、当選を失うものとされている。いずれの場合も、請負関係自体には影響を及ぼさない。
議員の請負禁止は、それにより議員の公正な職務の遂行等を図り、もって議会の公正な運営や事務執行の適正を確保しようとするものといえる。すなわち、請負関係による利害関係から生ずる職務の公正な遂行を害するおそれや住民からの疑念・不信を排除するためのものであり、そこでは、議員が、自治体の具体的な請負契約の締結に対する議決等に参与することにより直接間接に事務執行に関与することになることが強調されることも多い。議員が利益相反的に、議員としての地位を利用して自己の私利私欲を図ることを防ぐほか、首長・行政職員などの執行部が、議会対策として議員への「買収」行為をしないようにするためのものとの見方もある(5)。
議員の請負禁止規定は、1899(明治32)年の改正により府県制と郡制、1911(明治44)年の改正により市制と町村制に設けられたが、当初は被選挙権を有しないとする規定であり(6)、また、市制・町村制の改正の際には、「議員タルノ地位ヲ利用シテ私曲ヲ図ルノ弊ニ陥リ易キ業務ニ従事スル者」も被選挙権を制限する必要があるとされ、政府原案ではその対象を「市ニ対シ常ニ工事ノ請負、物件労力其ノ他ノ供給契約ヲ為シ又ハ金銭出納ノ取扱ヲ為ス者又ハ主トシテ同一ノ行為ヲ為ス法人ノ役員」とされていたものが、それでは小都市では被選挙権を有さない有権者が多くなるとして、「市ニ対シ請負ヲ為ス者及其ノ支配人又ハ主トシテ同一ノ行為ヲ為ス法人ノ無限責任社員、重役及支配人ハ其ノ市ニ於テ被選挙権ヲ有セス」に修正されたものであった。その後、1926(大正15)年の市制・町村制・府県制の改正では被選挙権の制限ではなく該当する者が当選の承諾をするには請負関係の地位を退くことを要するとの規定に改められるなどしたが、戦後、1946(昭和21)年の改正により規定は廃止されている。その理由は、議員が請負関係に立つことでそれほど弊害を伴うとは考えられず、むしろ広く人材を求めることが望ましいとするものであった(7)。他方、市町村長については請負禁止の規定が存置され、都道府県知事については同年の改正により請負禁止規定が新設されている。
議員の請負禁止が復活したのは1956(昭和31)年のことであった。自治体議会の場合には、重要な契約や財産の取得等についても議決事項となっていることなどから、直接自治体に対して請負をする行為を禁止し、議会の議員としての活動の信用を高め、あるいは事務執行について疑義を生じないようにしようとするものとされ(8)、また、実際に問題が生じているといった事情もあったようだ。
ところで、請負禁止については、「請負」に該当する場合には、議員の失職といった重大な結果に至ることから、「請負」の要件や判断基準が明確であることが必要である。
この点、兼業禁止の対象となる「請負」については、民法上の「請負」に限らず、広く営業としてなされている経済的ないし営利的取引であって、一定期間にわたる継続的な取引関係に立つものを含むと解されている(9)。このことから、請負の性格として、継続性や反復性があること、経済性ないし営利性があること、請負の内容を決定する自由があることなどが挙げられるが(10)、他方、法人の場合にはその重要度につき職務遂行の公正や適正を損なうおそれはないと評価されれば「請負」には該当しないことになる。
ただ、いずれにしても、「請負」に該当するか否かは、個々の事案についてその契約内容や性質を十分に分析検討した上で判断される必要があり、なお不明確なところがあることは否めない。
そして、それが議員のなり手にも影響しているとの指摘などもなされるようになっている。