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2021.09.27 議会改革

第22回 議員の職務の公正性と兼業禁止・除斥

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(1) 旧帝国憲法下の衆議院議員については、政府に対して請負関係にある者は被選挙権を有しない旨の規定が存在したが、1925(大正14)年の衆議院議員選挙法の改正で削除された。その際の政府の廃止理由の説明は、「政府ニ対シ請負ヲ為シマス者ノ被選挙権ヲ制限致シマシタ理由ハ、是等ノ者ガ議員タルニ於テハ、其請負者タルノ立場上、或ハ公正ナル意見ヲ発表シ能ハザルコトガアルデアラウシ、或ハ議員タルノ地位ヲ利用シテ、不正ヲ図ル等ノ事アランコトヲ虞ッタガ為デアリマセウケレドモ、会計法規等ノ完備セル今日ニ於テ、斯ノ如キ危険ハ大ニ減少セリト信ジテ居リマス」(第50回帝国議会大正14年2月22日衆議院本会議(議事速記録17号)における若槻礼次郎内務大臣の趣旨弁明)というものであった。なお、現在、国会議員については、政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開等に関する法律(平成4年法律100号)により、議員が報酬を得て会社その他の法人・団体の役員、顧問その他の職に就いている場合に関連会社等報告書の提出が義務付けられているほか、行為規範(昭和60年各議院議決)で、その対象とならない企業又は団体の役職に就いている場合の届出、議長・副議長の報酬を得ての企業又は団体の役員等の兼業禁止、常任委員長・特別委員長の報酬を得ての所管に関連する企業又は団体の役員等の兼業禁止が定められている。
(2) 国会法113条、衆議院規則239条、参議院規則240条等。
(3) 長に関する公職選挙法104条・地方自治法142条に関する判例ではあるが、最判昭和62年10月20日裁判集民152号51頁は、同法142条の「主として同一の行為をする法人」とは、「当該普通地方公共団体等に対する請負が当該法人の業務の主要部分を占め、当該請負の重要度が長の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度に至っている場合の当該法人を指す」とした上で、当該普通地方公共団体等に対する請負量が当該法人の全体の業務量の半分を超える場合は、そのこと自体において、当該法人はそれに該当するが、請負量が当該法人の全体の業務量の半分を超えない場合であっても、当該請負が当該法人の業務の主要部分を占め、その重要度が長の職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いと認められる程度にまで至っているような事情があるときも、当該法人はそれに該当すると判示した。
(4) 会議規則では、地方自治法92条の2の規定に該当するかどうかについて議会の決定を求めようとする議員は、要求の理由を記載した要求書を証拠書類とともに議長に提出することが規定されているのが通例である。
(5) 金井利之「新・ギカイ解体新書 議決事件の限定と請負禁止の緩和─『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その12)─」議員NAVI 2019年2月25日号。
(6) 1899年の全部改正後の府県制の請負禁止に関する規定は「府県ノ為請負ヲ為ス者又ハ府県ノ為請負ヲ為ス法人ノ役員ハ其ノ府県ノ府県会議員ノ被選挙権ヲ有セス」とするものであった。
(7) 政府の答弁資料によれば、①現在の経済取引の実情から考えると、さして弊害の生ずる余地のない場合もあって、現行規定を存するとすれば甚しく権衡を失する場合がある、②今日請負契約は多く競争入札に付せられておりその手続は全く機械的に規則に従って行われるものであるから、そこに特に弊害の伴うことも考えられない、③甚しい弊害を伴わない限り、議員にはできうる限り広い範囲から人材を求むべきであり、殊に最近の社会情勢から考えて、経済や実業方面に練達な士の参与を求めることが望ましい、④既に衆議院議員については大正14年の普選の際に廃止されている条項である、したがって、現在の制度は消極的に見てもその理由がなく、積極的に人材を求める上からはむしろ支障となっている、⑤而(しこう)してこの制限を廃止しても、議員はその一身上に関する事件については、会議に参与することはできないから、実際問題としてこれを防止し得る制度的保障がある、などとされていた。内務省編『改正地方制度資料・第1部』(1947年)1222~1223頁。
(8) 第24回国会昭和31年5月10日参議院地方行政委員会(会議録32号)での政府(自治庁行政部長)による詳細説明。また、政府(自治庁行政部長)は、それに先立つ昭和31年4月26日衆議院地方行政委員会(会議録42号)で、国会議員との場合の権衡を問われ、国会議員と地方議会の議員とでは、議会で扱う事案が相当違い、国会は法律と予算であるが、地方では予算は直接的に団体自らが執行する経費、さらに重要な契約はみな議会の議決事項になっており、議会で扱う事務がきわめて直接的、具体的であり、執行事務をやっているのと大差がなく、問題がきわめて多いとし、また、除斥での対応が適当ではないかとの質問に対しては、除斥だけでは実際の実情を見ると十分な成果を上げておらず、そういう現実の実情も基礎にしたと述べている。政府の答弁資料でも、「議会の議員は直接契約の当事者となるわけではないけれども、当該契約を締結するについては契約に対する同意議決等により団体意思の決定機関として参与する場合があり又、実際問題としても議員が団体の具体的な事務の執行に及ぼす直接間接の影響力はないがしろにできないものがある」、「このような立場にある議員が、団体との間において請負関係に立つということが色々と疑惑を招き不信を招き易い事柄でもあるので、いろんな事情に鑑み、規制を加えることが、適当だ」としている(自治庁編『改正地方制度資料・第12部』(1957年)652頁)。なお、このときの改正では、執行機関の委員会委員や委員についても、その職務に関する自治体との請負禁止が規定されている。
(9) 長の地方自治法142条の「請負」に関するものではあるが、名古屋高判昭和34年9月19日民集14巻11号2083頁は、請負の意義に関しては、広狭種々の見解が存するが、それは当事者の一方がある仕事を完成し、相手方がその仕事の結果に対し報酬を与えるという民法上の請負契約のみならず、広く一般に営業として自治体に対し物品又は労力等を供給することを目的とする行為、すなわち、自治体に対し継続して物品を納入し、又は自治体より事務処理の委託を受けてこれを執行するなど、その内容として請負的要素を有する売買又は委任(準委任)等の契約をも包含する趣旨と解するのが相当との判断を示している。上告審である最判昭和35年9月2日民集14巻11号2061頁は、そのような解釈を前提に、都道府県の許可を受け採取料を納付して砂利採取事業を行う会社は、都道府県に対し請負をする法人とはいえないとした原審の判断を正当としている。
(10) 総務省平成30年4月25日通知「地方議会に関する地方自治法の解釈等について」は、請負は、一定期間にわたる継続的な取引関係に立つものに限られ、法令等の規制があるため当事者が自由に内容を定めることができない取引契約や、継続性がない単なる一取引をなすにとどまる取引契約は、請負に該当するものではないとしている。
(11) 他方、2親等内親族企業の経済活動の自由の関係については、請負契約等に係る入札資格を制限されるものではないこと、2親等内親族企業は請負契約等を辞退しなければならないとされているものの、制裁を課すなどしてその辞退を法的に強制する規定は設けられておらず、当該契約が私法上無効となるものではないことなどが考慮され、憲法22条1項及び29条に違反しないとの判断を示している。
(12) 原田一明「市議会議員政治倫理条例の合憲性」『平成24年度重要判例解説』(有斐閣、2013年)15頁は、違憲と判断した本件高裁判決につき、規制対象者が一人に限られ、狙い撃ち的規制とも考えられる本件の特性に配慮した結果の本件条例に限っての適用上の判断という要素が強いと指摘する。
(13) 政治倫理条例や政治倫理規程で、兼職禁止の職を列記した上で、その他として「議会運営の公正を妨げると思われる団体等の代表に当たる職」と規定するものが見られるが、規定の表現としての適切性のほか、どのような職がそれに当たるのか分かりにくく不明確であり、恣意的な運用のおそれもあるように思われる。
(14) なお、町村議会研究会報告書は、小規模市町村における議員のなり手不足対策として、少数の議員によって議会を構成し議員に専業的な活動を求める「集中専門型」と、議会の権限を限定するとともに議員定数を増加することによって議員一人ひとりの仕事量や負担を緩和するとともに議会に参画しやすい環境整備として議員に係る規制を緩和し議会運営の方法を見直す「多数参画型」の二つの議会のあり方を示しており、議決事件の限定と請負禁止の緩和は、多数参画型に必須とする。
(15) なお、答申では、後者については、公職就任権の制限を抑制する観点から認めるべきとする意見がある一方、議員が第三セクターの取締役等となることで長の活動を監視する議会の機能に影響が生じるのではないかとの意見があるとする。
(16) JIJI.COM 2021年5月12日「地方議員の兼業規制を緩和 自治法改正へ議員立法─自民」など。
(17) この点、議員政治倫理条例により議員の兼業等の状況を報告させ、その情報を住民に公開しているところなどもある。
(18) その理由について、教員は、他の一般住民と比較しても少なくとも水準以上にある人々であり、広く人材を求める点から、兼職禁止の対象から除かれたとされている。鈴木俊一『改正市制町村制解説』(良書普及会、1946年)41頁。なお、これは、衆議院での修正によるもので、GHQが要求したものであったようである。
(19) その改正の理由としては、中央の政治的影響を直接地方に及ぼして好ましからざる結果を生じるおそれがあること、今後政治の中心が議会に移るに伴って議員の職務も多忙となり、兼職していては職責を果たしえないことなどが挙げられていた。前掲注(7)『改正地方制度資料・第1部』「地方制度改正関係答弁資料」1212頁。
(20) 第2回国会昭和23年6月19日衆議院本会議(本会議録67号)における「地方自治法の一部を改正する法律案」に関する衆議院治安及び地方制度委員長報告。
(21) 衆議院段階では、地方公共団体の議会の議員はその在職中に衆参両議院議員又は他の地方公共団体の議会の議員の候補者となることができるとする小委員会の案(公職選挙法89条3項)が「選挙法制に関する調査特別委員会」で議論となり、衆参両議院議員の選挙の部分が削除されて、参議院に送られたが、参議院の特別委員会での修正により、当該89条3項の規定は削除されるとともに、関係法令整理法に他の地方公共団体の議員との兼職を禁止する地方自治法92条2項の改正が追加されたものであった。
(22) これにより、従来は対象から除外されていた私法上の契約関係に基づく雇員、傭人等も常勤である限り兼職禁止とされることになった。
(23) その理由については、「監査が多くの場合行政の批判や非違の剔抉となるから、議員のやうに羈束されない独立の地位にある者を同時に伴つてゐなければ、目的に適合する徹底した監査を行ひ得ない虞があるからである」とされていた。前掲注(7)『改正地方制度資料・第1部』「地方制度改正関係答弁資料」1281頁。これに対し、近年の議選委員の見直しや廃止の議論は、議選委員については、短期で交代する例が多いことや、当該自治体の内部にある者であり、その監査が形式的になりがちであること、監査委員は長からだけでなく議会からも独立した存在とする必要があることなどを理由とするものである。
(24) 第2次地方分権改革における義務付け・枠付けの見直しにより、審議会等の委員の資格・要件に関する定めが廃止されることで、民生委員推薦会など、議員の委員の就任の定めがなくなったものもある。
(25) 十和田観光電鉄事件・最判昭和38年6月21日民集17巻5号754頁は、労働基準法7条が特に労働者に対し労働時間中における公民としての権利の行使及び公の職務の執行を保障していることに鑑みるときは、公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずして公職に就任した者を懲戒解雇に付する旨の就業規則の条項は、当該規定の趣旨に反し、無効のものと解すべきとする一方、公職に就任することが会社業務の逐行を著しく阻害するおそれのある場合について、「普通解雇に附するは格別」と述べることで普通解雇とする余地を認めている。また、従業員が市議会議員に就任することによって業務の運営に支障が生じたこと、年齢も63歳に達していること等を理由とする解雇が相当とする原審の判断を支持した社会保険新報社事件・東京高判昭和58年4月26日労働民例集34巻2号263頁などの裁判例もある。
(26) それらの点については、①利害の性質が「従事する業務」に対する価値判断や経済的利害に関わるものかどうか、②業務に従事している者が当該業務主体に対し支配力を行使しうるような立場にあるかどうか、③審議の対象となっている事件の主要な部分を占めているかどうかなどによって判断されることになるといえる。
(27) 田中二郎『新版 行政法上巻〈全訂第2版〉』(弘文堂、1974年)144頁。
(28) なお、国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範(平成13年1月6日閣議決定)では、①営利企業については、報酬を得ると否とにかかわらず、その役職員を兼職してはならない、②公益法人その他これに類する諸団体については、報酬のない名誉職等(届出が必要)を除き、その役職員を兼職してはならない、③自由業については、原則としてその業務に従事してはならない(従事には許可が必要)ことなどが定められているが、実効性を欠いている。
(29) また、議決の対象となる契約や財産の取得・処分については政令によりその種類と金額が限定されているのであり、条例による基準の追加も認められておらず、その権限は限定的なものとなっているにもかかわらず、それを議会や議員の活動量に結び付けることにも疑問がある。
(30) 最判平成16年6月1日裁判集民214号337頁は、地方自治法96条1項5号の趣旨について、「政令等で定める種類及び金額の契約を締結することは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにある」とするとともに、「長による公共事業に係る工事の実施方法等の決定が当該工事に係る請負契約の締結につき同号を潜脱する目的でされたものと認められる場合には、当該長の決定は違法である」としている。また、同法96条1項8号の趣旨について、名古屋高判平成26年5月22日判例地方自治392号16頁は、「政令等で定める財産の取得又は処分は、地方公共団体にとって重要な経済行為に当たり、その財政に及ぼす影響が大きなものとなるおそれがあることから、これに関して執行機関の長の判断のみに委ねるのではなく、住民の代表である議会の議決を得ることで、住民の利益を保護し、住民の代表意思に基づいて適正に行われることを期することにある」と述べる。
(31) だからといって、それらが、予算における債務負担行為等として一応議決の対象となり、かつ、地方自治法・地方自治法施行令その他の法令(契約適正化の関係では、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律、入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律などもある)の定めに基づき適正に行われうることを前提に、議会が個別の契約締結等を許可することの意味や政治的介入・妨害のおそれ、事務の効率性等との関係を問う議論、契約をめぐる変化等を踏まえ別の観点から議会の議決の対象とすべき契約を問題とする議論などを否定するものではない。

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