2021.09.10 議会運営
第79回 議員報酬の引上げと予算措置/違法議決に対する議会の訴えの提起
明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
議員報酬の引上げと予算措置
長は、議会自らが議員定数の削減を可決したことに対し、議員1人当たりの職務が増大するとの観点から、議員報酬の引上げの必要を考えた。そこで、議員報酬の引上げを特別職報酬等審議会に諮問し、その結果、諮問のとおり引き上げることを認める答申がなされた。これに伴い、来年度の令和4年4月1日から議員報酬を引き上げる条例案を令和3年12月定例会に提出することとした。この場合に、長は当該条例案の提出と同時に地方自治法(以下「法」という)222条1項による予算上の措置を的確に講ずるため補正予算を提出する必要があるか。
最近では議会改革の一環として、議会における経費削減のため議員定数の削減、議員報酬の削減がなされる例がある。しかし、議員定数を削減することは、議会の役割・権限を議員定数削減前と同様に維持するとした場合には、議員1人当たりの職務量の増加をしない限り困難となることは想像に難くない。議会改革であることから、議会の役割を低下させることにつながることは本末転倒であるといえるので、議会の役割・権限を維持するため、生活給としての給与という位置付けでなく、議員の活動の対価としての議員報酬を議員活動の増加に伴い増額する必要性が考えられる。
ここで、議員報酬とは、法203条1項に基づき自治体議員に対して自治体が支給する義務を有するものであり、議員の権利である。そして、その支給方法は条例で定めることが法203条4項により規定されている。
【法203条】
① 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。
④ 議員報酬、費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。
そうすると、議員報酬を増額する改正条例案を長が提出するに当たっては、法222条1項における「長は、条例……があらたに予算を伴うこととなるものであるときは、必要な予算上の措置が適確に講ぜられる見込みが得られるまでの間は、これを議会に提出してはならない」とする規定が適用されることから、当該議員報酬の増額に伴う予算措置をしない限り当該条例案を提出することができないのかという問題が生じる。
法222条1項における予算を伴う条例等の提案について予算上の措置が適確に講ぜられる見込みが得られたとは、行政実例昭和31.9.28のとおり、遅くとも当該条例案の提出と同時に所要の予算案が提案されることをいう。なお、それ以外の場合では、既定の予算の範囲内で費用流用又は予備費の充用によって所要経費の支出が可能である場合も含まれる。
【法222条】
① 普通地方公共団体の長は、条例その他議会の議決を要すべき案件があらたに予算を伴うこととなるものであるときは、必要な予算上の措置が適確に講ぜられる見込みが得られるまでの間は、これを議会に提出してはならない。
【○「予算上の措置が適確に講ぜられる見込」の意味(行政実例昭和31.9.28)】
問 「予算上の措置が適確に講ぜられる見込」とは具体的には次のどの段階をいうものであるか。
1 長の主観においてその可能性があるとき
2 具体的に予算案をつくったとき
3 関係予算案が議会に提出されたとき
4 議会が議決したとき
答 3 お見込のとおり。
そして、新たに予算措置を必要とする条例はいかなるものも常に予算措置が適確に講じられる見込みが得られるまで議会に一切提出できないわけではないことに留意を要する。
つまり、法222条1項の規定は、条例が議決、施行された場合に同年度中に義務費となり直ちに債務を負担しなければならないというような条例に適用があるものである。そのため、次年度以降の予算措置についてまで要求するものではないといえる。
ゆえに、令和4年4月1日施行予定の議員報酬改正条例については、令和3年12月議会では予算上の措置を行う必要はなく、一般的には令和4年度の当初予算が長から提出され議会において審議される令和4年度予算に当該経費の額を計上して予算措置をすればよいといえる。