2021.09.10 議員活動
第12回 信頼と議員
9 参加、オープンデータ、透明性と信頼の関係
藤本によれば、電子政府で情報アクセス環境を整備することにより、透明性が高まるだけでなく、国民がガバナンスプロセスに参加する機会が高まる。オープンデータによる情報提供はこの傾向を強める蓋然性があるという(藤本 2019:64)。しかしそのためには国民側の処理能力を改良する必要があり、それがなければ、情報量が増えたからといって変化は生じない。さらに、事後的に検証を行えるようにするのであれば、情報への永続的なアクセスを保障することが重要であるという(藤本 2019:65)。
そして、情報公開制度による情報と異なり、電子政府によって提供されている情報は、当該機関の判断によって公表されるものである。当然、政府が公開したくない情報は公開されない。事後的にコントロールされそうな情報を自ら開示、提供しない可能性がある。電子政府による情報提供と情報公開制度は、補完的な関係としてとらえる必要があり、電子政府単独の情報提供では限界があるとする(藤本 2019:65)。
表2は、これら藤本の議論をまとめたものである。情報提供と情報公開制度が補完的に関係することにより、市民と政府の間に信頼が生まれ、維持されていくことになろう。
出典:筆者作成
表2 「情報提供と情報公開制度」の補完関係による「信頼」の発生と維持
10 「1次情報」入手と「議会の信頼」
自治体政府(議会・行政)は身近な政府である。特に市町村は最も身近な政府である。市民に近ければ、あるいは当事者であれば、1次情報を(入手し)活かすことに優位性がある。日頃から市民と信頼関係のある議会であれば、表3のような行政の後の「5次情報」ではなく、当事者から1次情報を得て議会として議論し方向性を出すこともできる。
情報は2次情報、3次情報、……となるに従って、事実から離れる可能性が高まってしまう。1次情報を持たない議論は、決定に謬を起こしうるし、謬を起こしていても気づくことができないか、気づくのが遅くなる。これでは、安心・安全な地域を将来に引き継ぐことはできない。公害の発見の遅れは、その典型である。
既存の制度(条例)では、解決が難しいこともある。1次情報を持った議会(議員)であれば、速やかに制度を変更(改正)することが可能かもしれない。1次情報を持った議会(議員)の取組みは、国や企業等に影響を与えることも少なくない。これらの活動は、市民をはじめ関係者との信頼を深める。
出典:筆者作成
表3 情報区分と情報所有者の例
11 議会・議員の「支配のネットワーク」からの独立
松下によれば、政府は団体・企業幹部、特権官僚を結集して、政財官複合をつくるとともに、同調型のジャーナリスト、学者、文化人、スターを取り込み、支配のネットワークをつくり上げるという(松下 1991:183)。自治体議会(議員)も支配のネットワークを形成しないようにすることが大切である。意図の有無にかかわらず、支配のネットワークに加担する(巻き込まれる)こともあるので注意が求められる。支配のネットワークに加担することは、市民の信頼を欠くことになる。
12 「信頼」は「決定」するための「議論」、「妥協」、「納得」の前提条件
議論せず、決めない議会は、片山善博がいうように存在意義はない(片山 2020:200)。また、議論せずに決定する議会も存在意義がない。しかし、自治体政府の主な政策を決定することができるのは議会だけである(地方自治法92条1項)。
また、今井照は、市民合意への過程は公開・参加の原則に基づく「納得」に向けたプロセスであり、その作業は代表者に仮託される。制度的にはそれが自治体議会の役割になる(今井 2017:196)。合意というのは妥協(納得)にほかならないという(今井 2017:275)。
これらの議論を「信頼」と関係付けると、「決定」するための「議論」、「妥協」、「納得」には、前提として「信頼」が必要であるといえよう。すなわち、「信頼」は「決定」するための「議論」、「妥協」、「納得」の前提条件である。
13 「議会の信頼」につながる議会の「努力と成果」の「可視化と共有」
土山希美枝は、議会改革において重要な「可視化と共有」には、「どれだけ努力しているか」と「どれだけ成果を上げたか」の両面があるとする。「どれだけ努力しているか」の「可視化と共有」は、議会改革の持続性を考えるときに重要になってくる。ただ、議会改革には、もう一つ、さらに重要な「可視化と共有」があると見る。それは、「どれだけ成果を上げたか」の「可視化と共有」であるとする(土山 2019:169)。これらのことは、「議会がどれだけ努力しているか」、「議会がどれだけ成果を上げたか」の「可視化と共有」が議会の「信頼」につながっているといえよう(図7参照)。
出典:筆者作成
図7 「議会の信頼」につながる議会の「努力と成果」の「可視化と共有」