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2021.08.25 政策研究

第17回 中心性(その3)

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自治体の意思決定における主体配置図(権力マップ)

 自治体の権力構造は、個々の自治体ごとにいろいろでありえる。しかし、自治体ごとの異同を記述するためにも、共通して着目すべき個人や組織・集団がある。こうした、権力の担い手となる個人や組織・集団を、一括して、主体(actor)と称することが多い。「アクター」とは「俳優」という意味もある。いうなれば、自治体という「舞台(arena)」で、意思決定という「権力劇」に「出演」する「俳優」(「登場人物(character)」)ということである。中心性という点でいえば、「主役(protagonist)」を務める「俳優」が誰なのか、「脇役(supporting actor)」や「敵役(antagonist)」は誰なのか、ということを記述できればよい。もっとも、「俳優」や「登場人物」は、通常は個人が前提とされているが、自治体での主体は、個人の場合もあれば、組織・集団の場合もある。
  自治体での基本的な主体の種類は、
  ① 首長
  ② 議員
  ③ 幹部行政職員4
  ④ 各種団体
  ⑤ 他政府(市町村から見れば、国、都道府県、他市町村など)
  ⑥ 住民
の6種で整理することができる(図1:ベンゼン環型)。
Jichitai_Gyouseigaku_zu01

図1

 もっとも、こうした6種類に主体を分類しても、権力の担い手が明らかになるわけではない。首長は1人であるから問題ないが、それ以外の主体は個人または組織・集団として複数であるので、各種類の中のどの主体が権力の担い手かを、突き止めていく必要がある。例えば、幹部行政職員は、自治体の意思決定に深く関わっていることは間違いないが、具体的に誰が「重用」されているかが、重要である。同じ副市長や同じ部長級であっても、どの副市長やどの部長が、権力のインナーサークル(内輪)にいるか、いないのか、「側近」または「信頼の厚い」の幹部か、そうではないのか、違いがある。また、議員でいえば、首長与党系議員と野党系議員で異なるし、所属会派・党派(いわゆる「数の力」)、当選期数、年齢、支持母体、性別等で、権力は異なる。議会の「ドン」や「重鎮」と、そうでない「ヒラ議員」、「一匹狼(おおかみ)議員」、「市民派議員」などとでは、全く異なる。
 各種団体は、文字どおり各種存在し、それぞれが競争・協力・対立関係にある。また、自治体の社会経済状況を反映して、多様な権力関係になる。かつての農山漁村部自治体では、農林漁業団体は強力であったが、土建国家化の進行により、土建業界団体が強くなっていく。商工会議所(商工会)・青年会議所・商店街などの実態も、地元の経済状態を反映する。観光地ならば観光・旅館団体が強いかもしれない。
 地区医師会はもともと強力であるが、高齢化とともに、医療・介護・福祉系団体も強くなっていくだろう。企業城下町であれば、特定の企業が強いこともある。労働団体は一般に弱体なことが多いが、企業城下町の中心企業の労働組合の発言力が小さくないことも多い。もっといってしまえば、地方圏自治体における最大の雇用主は当該自治体であり、自治体職員組合が最大の労働団体のこともある。さらに、体育・スポーツ、社会教育、学校教育(PTA連合会など)、文化、環境などの団体が結成されることもある。それぞれの構成員が、それなりに「名士」になっていくこともある。
 自治体の場合に国と異なるのは、自治会・町内会という団体が隠然とした権力を持っていることである。これらは、校区や地区などの単位自治会を基盤に、自治会連合会などの「頂上団体」をピラミッド型に組み上げることも多い。しかも、自治会・町内会の役員は、中高年・男性・地着き(ときに大地主)の人間が占めることが多く、それらが、下から「濾過(ろか)」して「純化」されていく。若者・女性・新住民がたまに加わっても、「純(馴(じゅん))化」されない限り、「頂上団体」に登っていくことはできない。このほかにも、自治体行政との関係が密接な行政委嘱員を中心とするような団体も形成される。消防団連合会、民生・児童委員協議会、社会福祉協議会、校長会、交通安全協会などもある。
 自治体の中心性を捉えることは、こうした主体が配置される地図を描くことにほかならない。より中心に近い内輪に配置され、多くの他の主体と結合する主体を内野に、より遠方・周縁に配置され、多くの主体とは結合する伝手(つて)のない主体を外野に、最も単純には二重の同心円で、より複雑には、多段階かつ同心円状に配置される(図2)。
Jichitai_Gyouseigaku_zu02

図2

 そして、この主体配置図は、自治体ごとに、時期ごとに、特有である。したがって、通時的に固定した同心円が存在しているとは限らない。もちろん、同心円の内野部分から、常に首長の後継者が再生産され、同心円の内部が常に中心性を確保する固定的で一元的な秩序はありえる。このときは、内野の中での権力闘争が激しくとも(「コップの中の嵐」)、外野から見れば、為政者集団や支配層は固定的なのである。しかし、その時々で中心の所在、または、内野の範囲が変わることもある。つまり、固定的な同心円の階層が存在しないこともありえる(図3)。
Jichitai_Gyouseigaku_zu03

図3

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