2021.08.25 議会改革
第21回 日本の自治体議会を相対的に見る──自治体議会の国際比較
イングランドとウェールズでは、1835年地方自治体法(Municipal Corporations Act 1835)によって初めて直接選挙で選ばれた議会をもつ地方自治体が創設されて以降、その基本構造形態としては、議会(Council)が地方自治体の最高意思決定機関であると同時に行政の執行権ももち、執行権の多くを議員で構成される分野別の委員会が担う「委員会制度」しか存在しなかった。しかし、これについては会議に時間が費やされるなどの非効率性、決定過程の不透明性への批判も強まっていたことから、2000年地方自治法で地方自治体構造の改革が行われ、それ以降の数次にわたる改革を経て、その基本構造については次の三つの類型があるとされる(6)。
第1は、リーダー・内閣制(Leader and Cabinet)であり、最も多くの地方自治体に採用されている形態である。
この形態は、従来の委員会の機能を内閣に集中したものであり、議会が選任する首長であるリーダー(任期4年)の指揮のもと、内閣(Cabinet)が日々の政策に関する意思決定と執行機能を担うものである。リーダーは本会議において任命され、それ以外の内閣構成員(任期4年)はリーダーにより任命されるが、リーダーと内閣構成員になれるのは議員に限られる(議員内閣)。内閣構成員の人数はリーダーを含めて10人以内という上限が定められている。内閣構成員ではない議員は、通常、政策評価委員会の構成員となる。
第2は、メイヤー・内閣制(Mayor and Cabinet)であり、公選首長と議員内閣の組合せである。
この形態は、議員内閣が日々の政策に関する意思決定と執行機能を担う点、メイヤーが内閣の議長となる点はリーダー・内閣制と同じであるが、内閣を率いるメイヤーを地方自治体の有権者により直接選挙される公選首長とするものである。メイヤーは、公式行事への出席など対外的に自治体を代表する議長の役割とリーダーの役割を併せもち、自治体の基本的政策の枠組みについては議会(本会議)の承認を必要とするが、日々の決定については政策評価委員会の監視を受ける。2000年地方自治改革において政府が移行を期待した形態であったが、実際の採用は少数にとどまる。
第3は委員会制(Committee)であり、2000年地方自治改革後も修正型として存続しているものである。
この場合、上記のとおり、議会は、地方自治体における最高の意思決定機関であると同時に、執行機関でもあり、行政分野又は地域別に委員会あるいは補助委員会を設置して行政の執行にあたり、最終的な責任を負う。ただし、議長は、実質的な政治的権限を有しておらず、議会多数党の議員により互選されるリーダーがその権限を有し、施策の決定や運営に大きな影響力を与えている。
なお、いずれの類型においても、事務部局が置かれ、事務部局は、議会から任命された事務総長のもと、リーダー・内閣・政策評価委員会、あるいはメイヤー・内閣・政策評価委員会、あるいは議会に対して必要な助言・支援を行い、部局ごとの政策実施等を行っている。
議会は、重要事項に関する決定、自治体運営枠組みの決定、予算・政策枠組みの承認などの権限をもち、その会期については、法律では最低年1回本会議を開催すべきことが規定されているだけで、それぞれの自治体で決定されている。
議会の議員(Councillors)については、自治体制度の改革によりその役割などにも変化が見られ、委員会制のもとでは基本的に議員の役割は同じであるが、それ以外では、政策を立案・実行する内閣の構成議員(executive)と、その政策決定や執行状況を評価・監視する政策評価委員会に所属する一般議員(backbencher)とに分けられる。また、イギリスでは、自治体議会議員は名誉職という考えが根強く、基本的に報酬は支給されてこなかったが、現在は、すべての議員に対する基礎手当が支給されるほか、議長やリーダー等の特別の責任を有する議員に対する特別責任手当、議員活動のため通常ならば行うことのできる子どもや扶養家族の世話を外部に委託した場合の経費を補填する世話手当、交通費・実費手当の支給ができることになっている。
議員数については、選挙区ごとに定数が定められており、その任期は4年である。その選挙については、イングランドでは、①4年ごとに実施し全議員を一斉に改選する方式、②2年ごとに実施し議員の2分の1ずつを改選する方式、③4年に3度実施し議員の3分の1ずつを改選する方式のいずれかによることとされており、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドでは4年に1度全員改選の方式によっている。