2021.08.25 議会改革
第21回 日本の自治体議会を相対的に見る──自治体議会の国際比較
確かに、例えば、議員が執行に参画することについては、議会と長の権力構造や議員の役割・あり方に大きな影響を与えることになり、慎重な検討が必要となるが、その一方で、都道府県と市町村の別や自治体の規模に関係なく、一律に現在の二元代表制を維持し、議会・議員は議事機関一本槍(やり)でいくというのもかたくなすぎであり、これからの地方自治のあり方を考えるならば、いくつかの選択肢があってもよいのではないだろうか。憲法が議会の議員と長の両者につき直接選挙を規定していることによる限界があるとはいえ、地方自治法でいくつかの選択肢を規定することは可能である。
また、日本の自治体議会関係者の間では、議員は専門職との前提に立ち、あるいはその専門性を強めようとする議論が強いが、欧米諸国では、自治体議会の議員については、伝統的に名誉職と位置付けている国が多く、兼職議員が一般的となっている国もあり、その場合には、周期的開催・夜間会議などの工夫もされている。しかし、だからといって議会の役割が低下するとは限らず、議事については、議員間での熱心な討議により決定するのが一般的な姿となっているのであり、少なくとも、いずれの議会でも議員の主な役割が議会において執行部側を問いただしたり執行部側に要求したりするものとなっているのは異例に属する。
報酬についても、欧米では、毎月一定額の報酬を受けるのは例外的であり、議員は一定の手当の支給や実費弁償を受けるにとどまることが多い。他方、日本では、戦後直後の改革において議員の名誉職制度の廃止と被選挙権の拡大とともに報酬の支給に関する規定が設けられ、1947年の地方自治法ではその支給が義務化される一方で非常勤の特別職というとらえ方を背景とした位置付けとされ、それが2008年の地方自治法改正で委員会の委員等の報酬とは分離して議員報酬と規定されたが、議員報酬の性格についてはいろいろと議論があり、必ずしも定まっているわけではない。
議員への報酬の支給は、資力のない者にも議員になる道を開くなど政治参加の機会の実質的保障にもつながるものでもあり、その性格をどう理解するかにかかわらず、議員のなり手にも影響することは否めない。自治体議会関係者の間では、議員の専門性やなり手の確保のためにも議員報酬の充実の必要性を強調する声が強い。ただ、ドイツでは、名誉職の原則が行政に精通していない地域住民の公的行政への参加をもたらし、行政の専門化による地域住民との隔たりを抑止する機能を果たすとともに、これにより議員は自治体当局に対しても地域住民に対しても独立を維持することができるといったとらえ方がなされているという。自治体が比較的高度の自治権をもち自治体議会の議決事項も幅広いドイツの自治体議会の議員が、名誉職とされ、議員活動とは別に生計を立てるための職業をもちつつその職責を果たしていることについては、どのように理解したらよいのだろうか。
このほか、議会への住民参加については、日本の一部の自治体でも議会改革の一環として様々な試みが行われるようになっているが、イギリスでは、本会議や委員会の最後に住民が自由に出席して議員に直接質問できる機会を設けている例、委員会に住民の代表が参加する例など、ドイツでは、委員会に議員以外の専門知識を有する住民や学識経験者等が参加する例、アメリカでは、議員同士の議論を基本としつつ各種委員会に住民が参加する例、会議において住民に発言の機会を積極的に認める例なども見受けられる。
地方自治体における基本構造ないし議会のあり方の問題と国際比較というのは、なかなか奥が深いといえそうだ。
(1) ただし、輸入後、それをカスタマイズしながら独自の制度としてきていることにも注意が必要であるが、その制度が普遍的なものと思い込んでしまうようなところもないわけではない。
(2) 本稿2以下の各国に関する記述は、筆者がインターネット等を通じて調べたもののほか、その多くは、自治体国際化協会の情報ライブラリー「各国の地方自治」(http://www.clair.or.jp/j/forum/pub/dynamic/local_government.html)に掲載されている資料や平成16年度比較地方自治研究会調査研究報告書「欧米における地方議会の制度と運用」などによっている。なお、各国の制度は変化し続けており、場合によっては内容的に現在の制度とは異なるところがありうることについて、あらかじめ留意していただきたい。
(3) 例えば、イギリスでは地域によって2層制と1層制が混在しているところと1層制のところがあり、アメリカでは州によって大きく異なるだけでなく基礎自治体のない地域などもあるほか、地方自治体の基本構造が統一的なものとはなっていない国が少なくないなど、日本のように画一的なものとはなっていない。
(4) そこでいうカウンシルは、住民から選挙された議員で構成される議会が議決機関と執行機関の双方の役割を担う総合的機関となっているものである。
(5) このほか、地域共同体的な性格をもつ法律上の準自治体(Sub-principal)としてパリッシュ(Parish)があり、タウン・カウンシルやコミュニティ・カウンシルとも呼ばれる。現在、イングランドとウェールズを合わせて約1万のパリッシュがあるが、都市部には少なく、主に地方の田園部を中心に存在する。パリッシュの機能としては、限定的な行政サービスの提供、カウンティやディストリクトから特定の事項について協議や通知を受ける権利、ディストリクトや国の機関などに対して地域の代表となることなどがある。
(6) このほか、2000年地方自治法で導入され、2007年地方自治法で廃止されたものとして公選首長・カウンシルマネジャー制(Mayor and Council Manager)といった形態もあった。
(7) ただし、2000年の公選職兼任制限法により、兼任できる公職数や公職の組合せが制限されるようになっており、例えば、異なる種類の議会の議員に関しては、自治体議会議員と他の自治体議会議員の兼職は一つに限り可能とされている。
(8) ゲマインデの数は減少してきているが、それでも1万団体を超えており、小規模なものも少なくなく、このようなことなどから、ゲマインデとクライスのほかに、ゲマインデ連合(Gemeindeverband)という単位が存在する。ゲマインデ連合には、ゲマインデ小連合、目的組合、ゲマインデ大連合(広域組合)があり、ゲマインデが小規模なために事務事業の遂行が困難な場合や、個々のゲマインデを超えたより大きな領域での事業実施がより効果的である場合に、所属ゲマインデに代わってその事務事業を遂行する。
(9) ドイツのゲマインデ議会の名称は、Gemeinderat、Stadtrat、Ratsherr/Ratsfrauなど州によって様々であり、議員の名称も同様である。なお、本稿のゲマインデの組織形態に関する記述において、「評議会制」という言葉を用いているが、市長制・北ドイツ評議会制・南ドイツ評議会制では「議会」に相当するものに「評議会」という訳語が、参事会制では「市町村代議員会」という訳語が用いられることが少なくない。本稿では、分かりやすさということから、便宜、類型名にのみ「評議会」を用い、説明ではすべて「議会」を用いている。
(10) Municipalityについては自治体、自治体法人、市町村などと訳されることがあるが、ここではとりあえず「自治体」としている。
(11) これらの数については、アメリカ国勢調査局2017 Census of Governmentsによる。
(12) そもそも、アメリカでは、地方政府の立法機関は、Council、Board of Aldermen、Board of Selectmen、Board of Commissionersなど様々な名称で呼ばれており、地方政府の議会をどう把握するかも問題となりうる。
(13) 無党派選挙は、候補者が政党指名を受けず、政党が候補者を立てることを禁止する選挙を指す。なお、少なからぬ自治体で、議会が非党派的であることを求める法が制定されているようである。
(14) 議会の会議は、週1回以上が0.2%、週1回が3.0%、月3回が2.1%、月2回が58.7%、月1回が34.4%、月1回以下が0.9%となっている。
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