2021.07.28 政策研究
第16回 中心性(その2)
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授 金井利之
自治体における平面性と中心性
天動説的自治観にせよ、地動説的自治観にせよ、自治体は「点」(または「球」)であることが、暗黙の前提になりそうである。しかし、天動説的自治観に立つ場合、自治体は「点」または「球(globe)」である必要はない。むしろ、「球」または「円」になっているのは「天」の側であって、「地平(horizon)」の方は「面」となっていることも可能である。例えば、「天円地方」とは、「地平面」の側は、東西南北の座標系で表される正四角形=正方形(「方形」)を意味する(図1)。また、「天球(celestial sphere)」が「天蓋(canopy)」のように「地平面」を覆っているときには、「地平線(horizon)」は360度の全方位に向けて「円形」となる(図2)。
図1 天円地方型
図2 天蓋地平型
要するに、「地平」の比喩で理解される自治体は、何らかの「面」であって「点」ではない、と考えるのも、しばしば見られる自治観である。この場合、自治体を特徴付けるのは、中心性ではなく、すでにこの連載で取り上げた地方性や、地域性・区域性・領域性・空間性などになろう。
しかし、自治体を中心性の観点から理解することは、こうした自治体の平面性を前提にしつつ、その内を「点」に分解した上で、中心となる「点」に着目することである。そもそも、地動説的自治観において、国は中心性を持った点として、つまり、中央政府(central government)として理解されるわけであるが、平面性を前提にすれば、国は「首都(capital)」という点だけを支配する存在ではない。むしろ、国土全域(national land)という平面を支配する全国政府(national government)である。領域国家(territorial state)としての国民主権国家の国土全域を管轄するのが全国政府であり、単純な「点」ではない。しかし、全国土という「面」を、首都または首府という「点」から支配している。