2021.07.12 議員活動
第10回 「自治体政府(二元代表制)」における議会
9 議会改革の動向と「分節型議論」
2020年6月26日、地方制度調査会から第32次答申として、「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」が内閣総理大臣宛てになされた。そこには、「第5 地方議会」において、表2において示した項目について議論がなされている。
出典:「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」(総務省 2020:21-24)を基に筆者作成(https://www.soumu.go.jp/main_content/000693733.pdf〔2021年7月5日確認〕)。
表2 第32次地方制度調査会答申における「第5 地方議会」についての議論項目
ここでは、そのうち「1 基本的な考え方」について取り上げる。「1 基本的な考え方」部分の要約が表3である。その内容は、これまでの議会についての議論が整理されたものであった。その上で留意すべきことは、この答申の「結び」において、「持続可能で個性豊かな地域社会の形成に向け、今後、本答申の実現に加え、官民を問わず、また、国・地方を通じてさらに幅広く議論が行われ、適切な施策が実施されることを期待したい」と述べていることである。このことを換言すれば、政策過程(課題抽出、選択肢作成、決定、実施、評価)の各段階において必要となる「分節型議論」の重要性を示唆している。また、このことは自治体政府(議会・行政)と他のアクターに求められる関係(議論)でもある。
出典:「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」(総務省2020:21-22)を基に筆者作成(https://www.soumu.go.jp/main_content/000693733.pdf〔2021年7月5日確認〕)。
表3 第32次地方制度調査会答申における「第5 地方議会 1 基本的な考え方」の要約
10 議会改革の行方と帰路
辻陽は、議会改革の行方を、表4に示すように「『内からの』全自治体・議会機能強化論」と「『外からの』改革論」に分け、さらに「『外からの』改革論」については、「『外からの』大規模自治体・選挙制度改革論」と「『外からの』小規模自治体・執政制度改革論」に分けて論を展開している。その上で、「内からの改革論」と「外からの改革論」の双方の方向性を「多様性の承認」として認める考えを示している。そして、諸外国の地方自治制度は国によっても地域によっても多様であり、流動性もあるとする。逆にいえば、日本国憲法と地方自治法に規定された日本の地方制度の一律性と固定性が、諸外国の制度の検討からは際立って見えてくるともいえると述べている(辻 2019:196-235)。
出典:辻 2019:196-235を基に筆者作成
表4 議会改革の分類
しかし、外からの改革(研究会の提言)のうち、大規模議会を対象に提言された選挙制度改革、自治体議会の政党化とマルチレベルの政党制の「融合」に関し、「政党」については賛否両面がある。表5に示すように「党議拘束・会派拘束の有無」と「政党・会派のある良悪」の関係で、〈政党・会派の立場〉と〈議員の立場〉は対立しうる。もちろん、「政党化・会派化」は議会の大きな責務の一つである「決定」することに役立つものであるが、「政党内・会派内の階層性」すなわち「ドン」の存在や「議員の期別階層性」の重視度合いにより、「閉ざされた政党・会派」「開かれない議論」など、マイナス面の展開が考えられることに留意することが必要である。さらに、自治体議会の政党化とマルチレベルの政党制の「融合」については、自治体政府が国との関係で担っている「相互制御」の役割を薄めてしまうことを忘れてはならない。「政党化・会派化」には、このようなマイナス面の展開が考えられる。
出典:筆者作成
表5 「党議拘束・会派拘束の有無」と「政党・会派のある良悪」の関係
また、外からの改革(研究会の提言)について、小規模議会を対象に提言された執政制度改革については、仮に議院内閣制(議会内閣制)を取り入れるとすれば、議会と行政の「相互制御」機能は弱まることになる。議員のなり手確保策については、既存の議会改革の取組みが議員のなり手確保に役立った長野県飯綱町(NHKスペシャル取材班 2020:222-223)の例も見られる。
以上のことから、当面は「内からの改革(自発的取組み)」を優先することが考えられる。すなわち、現時点は「議会基本条例の制定」「情報共有」「市民参加」「議員間討議」「政策制御(提言・作成・決定・評価)」「議会改革組織の常設」などの「内からの改革(自発的取組み)」に傾注する段階にあるとの認識が必要であろう。議会改革を後戻りさせないための取組みも重要である。