2021.06.25 議会改革
第19回 自治体議会の空間
4 改革と器
自治体議会における議場の改造やICT化・デジタル化対応などは、議会改革の一環として行われることも多いようである。確かに、どのような器とするか、どのようなツールを用いるかは、そこで供されるものの見栄えだけでなく、評価にも影響する。しかし、器を変えたり先端技術を用いても中身や質が変わらなければ、いっときは改革が進んだような印象を与えたとしても、結局、評価は変わらないことになる。むしろ、見た目が立派になった分、中身に対する評価は厳しくなる可能性もある。
日本では、問題への対処や改革を行う場合に、とかく形から入り、制度や形式さえ変えれば大きく前進するかのような見方をしがちである。
議場や装置について改善・工夫をすることの重要性を否定するものではない。たかが器、されど器ということもある。しかし、器をどう生かすかはそれを使う人である。そして、器にふさわしい活動を行い、その役割を果たしているのかどうかを評価するのは議員ではなく、住民であることが忘れられてはならないだろう。
オンライン会議についても、日本では、欧米でのロックダウンのような深刻な事態にまでは至っておらず、現実的な必要性に迫られることがなかったことなどもあって、プラグマティックな発想や取組みよりも、建前論や制度論に終始したり、表面的に規定などの形を整えたりするにとどまっている。オンライン会議の導入・普及のためには、まずは実験や試行錯誤によるノウハウの蓄積や課題の把握などが必要であり、また、日進月歩の技術の進展にある程度は追い付きつつ、改良を重ねていくことも求められることになる。オンラインの活用方法としては、遠隔地にいる有識者の参考人招致、住民の意見の幅広い聴取など住民との対話等もあるのであり、その場合には、審議・議決の場合と比べれば厳格性等もそれほど要求されるわけではない一方で、その効用はそれなりに大きいのではないかと思われる。柔軟な発想や対応にも期待したいところだ。
(1) 仮議事堂も、一つだけであったのではない。2年半の歳月をかけて第1回帝国議会の召集日の前日である1890年11月24日にやっとのことで完成を見た第1次仮議事堂は、完成からわずか2か月後に火災により焼失してしまい、とりあえず貴族院は華族会館(旧鹿鳴館)、その後は帝国ホテル、衆議院は虎ノ門の東京女学館(旧工部大学校)を仮住まいとして審議を続けたといわれる。第2次仮議事堂は、第2回帝国議会の開会に間に合わすべく、わずか6か月で完成を見たものであったが、1925年9月に火災で焼失するまで34年の長きにわたって使用された。そして、第3次仮議事堂は、開会が間近に迫っていた第51回帝国議会に間に合わすべく80日余の工事期間で完成したものであった。このほか、後述のように広島臨時仮議事堂がある。
(2) 「第13回都道府県議会提要」(全国都道府県議会議長会事務局、2016年)によれば、議事堂の位置が庁舎から独立しているのは35議会(委員会室が庁舎内にある2議会を含む)となっている。ただし、その場合でも、建物を執行部が管理しているものが20となっている。
(3) なお、この仮議事堂の敷地の傍らには、馬小屋があったため、ハエが非常に多く、議員の背中に10匹以上のハエがとまるような状態で、とても審議どころではなかったというエピソードも残っている。
(4) 念のため、ここでは、議員派遣とか、議会報告会などの話をしているわけではなく、議会制度というものと折り合いをつけながら、議会や会議の場所について、どこまで柔軟かつ発展的に考えることが可能なのか、頭の体操をしておこうとするものだ。
(5) 尾崎行雄『尾崎咢堂全集〈第10巻〉』(公論社、1955年)84頁。
(6) もっとも、地方自治法の建前としては、長等の執行部は、審議に必要な説明のため議長から出席を求められたときは議会の会議に出席しなければならないとされているにとどまり、議院内閣制を採用する国の場合とは異なり、執行部に議会の会議に出席する権利までは認めておらず、常に執行部の側が出席する前提とはなっていないことにも留意が必要である(同法121条)。
(7) 三重県議会「三重県議会の改革 議場を対面演壇方式に」(2003年4月(2013年4月改訂))。
(8) 当時の北海道議会、静岡県議会、滋賀県議会、大阪府議会など。ちなみに、北海道議会の議場は、その後、非対面・馬蹄形とされている。
(9) 静岡県掛川市議会、愛知県稲沢市議会、名古屋市会など。
(10) 「議員NAVI議場訪問 第1回 木の香り溢れる円形議場【宮崎県小林市議会】」(議員NAVI 2018年6月25日号)。
(11) イギリス庶民院の本会議においては、臨時下院規則により、行政監視の議事、法案の審議等につき少数の出席者(上限50人)と遠隔参加者(上限120人)によるハイブリッド議事の形式で行うことを可能とし、遠隔投票も認められた。国のレベルでは、本会議につき、スペイン議会のように両院で既に導入されていたオンライン投票制度を活用したところ、アメリカ下院やフランス国民議会のように代理投票で対応したところなどもある。
(12) これらの動向については、牧原出「『いわゆるオンライン会議』としての地方議会の可能性」月刊地方自治880号(2021年)参照。
(13) 総務省自治行政局行政課長通知「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について」(令和2年4月30日総行行117号)。これは、技術的助言としてなされたものとされるが、総務省は、さらに、令和2年7月16日付けで「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法に関するQ&Aについて」を出し、地方六団体の各全国議長会の事務局からの質問に答えている。そこでは、オンラインによる方法を活用して本会議を開催することについて、本会議における審議・議決は団体意思の決定に直接関わる行為であり、議員の意思表明は疑義が生じる余地のない形で行われる必要があることなどから、慎重に考える必要があると回答している。
(14) このほか、会議の特例、出席の特例などと位置付けるところもある。なお、茨城県議会の委員会条例では、電子情報処理組織の使用として、委員長及び委員は、感染症のまん延防止のため会議への出席を制限する必要がある場合、大規模な災害の発生により会議に出席することが困難である場合その他特に必要がある場合には、電子情報処理組織を用いて行われる映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をする方法により、発言し、及び議決に加わることができるとし、委員を主体とした規定としている。
(15) そこでは、議会と住民との双方向でやり取りができるオンライン会議システムの導入なども打ち出されている。
(16) 国会に関する憲法56条の「出席」をめぐっても憲法学者の議論は分かれており、定足数の文脈で規定されているものであり、会議原則の枠内で議院の自律権の行使によりオンライン参加も出席とみなすことは可能との議論がある一方で、全国民を代表(represent)するものとして会議に物理的に現前(present)していることが必要との議論もある。国会の場合と自治体議会の場合とでは同列に論じられないところもあるが、少なくとも、自治体議会については、議員が住民の見える場において住民を代表して議論をし決定するという本質的要素が維持できるのであれば、限界はあるものの「出席」の概念拡張は可能である一方、それがどこか維持できないのであれば、オンライン会議は困難と考えるべきではないだろうか。
(17) さらに、新型コロナウイルス感染症との関係でまずは緊急的・実験的なものとして導入するのであれば、委員会条例や会議規則を改正するのではなく、時限的な臨時特例条例や臨時特例規則を制定することも考えられるのではないかと思われる。
(18) 広くオンラインによる参加を認めるものとして、大津市議会委員会条例では、会議の開催方法の特例として、特に必要があると認めるときは、オンライン会議システムにより会議を開催することができるとした上で、出席の特例として、委員は、公務、災害、負傷、 疾病、育児、看護、介護、配偶者の出産の補助、忌引その他のやむをえない事由により委員会の開会場所へ参集することが困難であると認められる場合において、希望するときは、委員長の許可を得て、オンライン会議システムにより会議に参加することができると規定している。
(19) 小規模自治体での話とはなりそうではあるが、完全オンラインが発展し、それによる開催が一般化するとともに、仮にその場における住民の参加・発言なども容易になってくると、議会や議員という垣根が相対化し、直接民主主義的な要素も含んだ新たなフォーラムへと発展していく可能性も、あるいはあるのかもしれない。
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