2021.06.25 議会改革
第19回 自治体議会の空間
第3に、そもそもどのような状況が「出席」といえるのかということについても、しっかりと検討される必要があるほか、遠隔での表決の方法、オンライン会議の対象とする(対象として適する)案件や議事についても、検討が必要である。議論の対立が厳しく、議事の混乱が予想され、あるいは採決の結果が見通せないような場合に、現実問題として果たしてオンライン会議を行いうるのだろうか。
第4に、オンライン会議については、ハイブリッド方式と完全オンライン方式がありうるが、後者については、前者と比べて、議会審議のあり方を大きく変えることになるだけに、どのような場合に行いうることとするのか慎重な検討が必要となるほか、将来的に議会の意義や役割にも影響を及ぼす可能性をはらんでいることも認識されるべきだろう。
第5に、これまでの自治体議会の審議のあり方からすれば、執行部の出席が必要となる場合が多いと思われるが、執行部の参加の方法の協議・調整のほか、執行部側の事務の都合や対応にも配慮することが必要となる。
第6に、議会の本会議については公開が原則とされており、また、委員会についても公開されるようになってきている中で、オンライン会議の公開をいかに確保するかという問題もある。ハイブリッド方式の場合には議場でオンラインによる出席議員の映像等をどう見せるのかという問題となるのに対し、完全オンラインの場合には審議や各議員などの状況をインターネット上でどう見せるのかという問題となる。公開性の低下は、オンライン会議の正当化を困難なものとしかねない。
第7に、何といってもセキュリティや通信の安定性などの技術上の問題があるのであり、なりすましやハッキングなどの問題が生じる可能性や、自由な意思表明・表決の真正性の確保といった問題もある。リスクを軽減し、トラブルを防止するための措置を講じるのは当然だが、トラブルが生じた場合の対応についても考えておく必要がある。仮に手続に瑕疵(かし)を生じるような場合には、審議や議決の有効性の問題ともなりうる。
新型コロナウイルス感染症禍を契機とした自治体議会の動きについては、その先駆的・実験的な取組みとしては評価しうるものの、以上の検討が必ずしも十分にはなされないまま、委員会条例や会議規則の改正が行われているような印象を受ける。例えば、感染症の場合と大規模災害の場合と育児・介護等のやむをえない事由が議員にある場合とでは、それぞれ問題や様相を異にし、オンライン会議の位置付けやあり方なども異なりうるにもかかわらず、それらが一緒くたに論じられ、十分に整理されているとは言い難いように見える。とりわけ、議員にやむをえない事由がある場合にオンライン参加を認めることはそれが恒常的なものとなっていく可能性もあり、それに議員のなり手不足への対応策(門戸を広げ多様な経歴、職業等をもったなり手の確保)ということが加われば、さらにオンライン参加が広く認められることになるだけでなく、完全オンラインによる場合が広がってくることなども予想される。そうなってくると、自治体議会の位置付け・意義・役割にも影響を及ぼすことにもなりかねない。自治体議会の多様・柔軟なあり方を認めるのであれば、それも一つの選択肢なのかもしれないが、議会の機能ということでは同意や監視の方にシフトすることにならざるをえないようにも思われる(19)。
自治体議会も、伝統的な議会のスタイルや建前にこだわるべきだというつもりはない。ただ、民間企業などでテレビ会議やオンライン取締役会・株主総会が行われているからといって、住民の代表機関として公開の場で権利義務等に関わる条例の制定、税金の使い道などを決定する自治体議会も同じように論じるのが妥当かどうかについては、よく考えてみる必要がある。技術の発達により可能となったとしても、議会や代表のあり方ということから、できないこと、維持されるべきもの、限界などがあるのであり、新たな技術や方式の導入により得るものもあれば失うものもある。オンライン会議については、一時のブームなどにあおられて検討されるべきものではなく、それぞれの自治体議会において、どのような場合にどのような目的・方法・範囲で導入することが考えられるのか、その技術的な可能性、経費の問題等も含め、その必要性・可否について、住民も巻き込んで、十分な検討を行い、しっかりとした覚悟と展望をもった上で取り組むべきだろう。