2021.06.25 議会改革
第19回 自治体議会の空間
第1に、委員会は、あくまでも予備的審査機関であり、最終的には、本会議で決定を行うものである以上、委員会だけでオンライン会議を行っても、それよりも多くの議員によって構成される本会議でこれを行うことができなければ、その意味・効果は限定的となる。このため、全国都道府県議会議長会が、2020年5月の「今後の地方議会・議員のあり方に関する決議─地方議会が直面する喫緊の課題への対応─」の中で、本会議をオンライン会議により開催できるよう必要な制度改正を求めたほか(15)、オンライン本会議の実現に必要となる地方自治法改正を求める意見書を採択する自治体議会が増えてきている。
問題は、地方自治法の「出席」について、オンライン参加を出席とみなす余地が本当にないのかどうかである。確かに、地方自治法の制定当時にそのようなことが想定されるべくもなく、現にその場にいることと解釈されてきたことは当然である。しかし、技術の発達やインターネットの普及などによりその場にいることと実質的に変わりがないようなことが可能となった場合に、それを出席とみなすような解釈・運用の余地が全くないとまでいえるかどうかである。しかも、当該規定の第1次的解釈権は、それぞれの自治体議会にあり、違法再議の可能性もあることから長とよく調整することなども必要とはなってくるものの、自主的に解釈することができるのが建前である。ただし、それは単に「出席」の文理解釈だけでなく、議会の本質的要素や代表のあり方も関係することになり、それらも踏まえた議論・解釈が求められることになる(16)。議会制度は、歴史とともに形づくられ確立してきたものであり、形式や建前にこだわるところがある一方で、国家社会に息づくものであり、その目的・内容・運用・機能は、理論的な普遍性とともに、特殊性・固有性・現実性・動態性なども帯び、そのあり方は国家社会の変化とともに変わっていくものといえる。自治体議会については、より弾力的な面もあるところ、議員が一堂に会することにどこまでこだわる意味があるのかということだろう。会派や党議拘束の存在と本会議の審議の儀式化、発言時間の割当制による発言議員の限定などの現実も考慮することが許されるかどうかという問題もある。
第2に、大規模な感染症のような非常時の場合と、やむをえない事由により欠席する議員のオンライン参加のような通常時の場合とを区別して考える必要があることだ。この点は、議会の機能の維持の問題か議員の権利行使の機会の確保の問題かといった目的も絡んでくることになり、また、臨時的・例外的なものか、恒久的なものかということにもつながるものである(17)。国会と自治体議会とでは違いもあるとはいえ、非常時においても議会の機能が維持され必要な法律・条例、予算などの議決が行われることが重要であり、そのために特別の措置を講じてその機能を確保することなども求められることになる。他方、議員は、代表として、会議への出席・発言・表決をする権利と義務を有しており、その行使のための実質的な機会の確保が求められることにもなるが、それは議会の本質・機能・会議原則などに矛盾しない限りで認められるものであり、技術・経費・運営の面からの限界もある。
前者に関しては、感染症の場合と大規模災害の場合とでも異なり、感染症の場合には議会における感染防止や感染者・濃厚接触者の発生による集会の困難化に対応するものであるのに対し、大規模災害の場合は、災害による交通手段のマヒ、議事堂や議場の損壊などのケースが考えられうるが、通信手段も使用困難となったり、議員の安否や所在の確認に時間を要する可能性もあるなど、どこまで議会が緊急事態に対応できるのかということのほか、大規模災害時における議会の役割といったことも問題となりうる。そして、自治体議会の場合には、専決処分制度との関係についても整理することが必要となってくるのであり、専決処分は限定的に運用されるべきだとしても、非常時において議会が参集困難な場合や緊急性というのは、専決処分になじみやすい面があることは否めない。議会の側からすれば、そのような場合でもオンライン会議の仕組みを整えておくことで議会の機能を確保し、その役割をアピールしたいところだろう。法治主義や民主主義の観点からも、非常時においてもできる限り住民の代表機関である議会の機能が維持・確保されることが必要といえる。ただし、非常時において大事なのは、自治体がその役割を果たし、住民の生命や暮らしを守り社会機能を維持することであることはいうまでもない。
他方、後者に関しては、その事由として育児、介護などが挙げられることが多いようであるが、正当な事由により出席できない議員の権利行使の機会の確保がうたわれるのであれば、妊娠出産、病気、障害などの事由もありうる。それぞれの事由に該当する場合でも事情や状況は一様ではなく、その線引きは悩ましい問題となるが、いずれにしても、実質的に審議に参加することができる状態の者であることが必要となる。また、仮に対象が広がれば広がるほど、オンライン参加を伴う審議の頻度は増える可能性がある(18)。