2021.05.12 政策研究
【第2回】「政策決議提案」を出口とした議会からの「政策サイクル」~岩手県奥州市議会の取組み~
常任委員会の所管事務調査をベースとした奥州版「政策サイクル」
2009年に制定された「奥州市議会基本条例」では、3条(議員の活動原則)で「把握した市民の意見、要望等をもとに、政策立案、政策提言等を積極的に行うこと」、7条(市長等との関係)で「議会は、市長等と常に緊張感のある関係を保持し、政策立案、政策提言等を通じて市政の発展に取り組まなければならない」とし、政策中心の議会になることを標榜(ひょうぼう)している。もともと奥州市議会では、2005年に合併前の江刺市議会において、「えさし地産地消推進条例」を議員提案で制定した経緯がある(合併により失効)。また合併後も、2012年に「子どもの権利に関する条例」、2018年に「おうしゅう地産地消わくわく条例」を制定する等、議員提案による政策的条例に取り組んだ経験はあったが、まだまだ基本条例に書かれたありたい姿には遠い、といった問題意識を多くの議員が持っていた。
そんな中、議会が大きく動くきっかけになったのは、2018年の改選後に行われた正副議長選挙である。選挙に先立って行われた所信表明の場で、小野寺隆夫現議長が「専門的な事務調査等課題解決に結びつける委員会活動」を、佐藤郁夫現副議長が「常任委員会強化による政策立案・政策提言の実現」を訴えて議長、副議長に選ばれた。これにより期せずして、常任委員会の機能強化と、委員の任期である2年に1回は各常任委員会単位で政策提言を実施しようといった流れができた。奥州市議会における政策サイクルの実施主体は、常任委員会。常任委員会の所管事務調査の延長線上にあるのが政策提言といった共通認識の下、奥州版「政策サイクル」の取組みがスタートした。
常任委員会での話し合いの様子
「政策立案等に関するガイドライン」によるルール化
その後、手探りで実施していた政策サイクルの取組みを整理、ルール化しようということで、2019年5月、議会改革特別委員会により「政策立案等に関するガイドライン」が策定された。ガイドラインでは、政策立案等の手法について以下のように定義されている。
「政策立案」とは、政策を構想し、その実現のために必要な仕組みに関する条例案を議会に提出すること。「政策提言」とは、市政における課題の解決を図るため、必要と思われる政策を提言書としてまとめ、市長等に対してこの提言書の提出をもって提案とすることとしている。それぞれには、メリット、デメリットがある。「政策立案」は、その条例案が可決されれば法的拘束力が生じ、実効性が最も高い手法であるが、利害関係者との丁寧な意見交換や周知のプロセス等に時間を要し、即時性に欠ける部分がある。一方、「政策提言」は、提言書を提出するものなので、任意のタイミングでスピーディーにできるものの、その提言には条例による義務付けがなく、拘束力がない。そこで両方の中間的な性質のものとして、「政策提言」の実施手法の一つとして「政策決議提案」を定義し、提言書のとおり提言することについての決議案を議会に提案するという方法としている。これにより、通常の「政策提言」に比べ、議決に基づく意思決定による重み付けができる。奥州市議会では、「政策提言」の実効性を高める観点から、特段の事情がない限りは、まずは「政策決議提案」をすることを基本としている。
具体的な「政策サイクル」のプロセスは、各常任委員会における「調査検討テーマの選定」から始まる。ここでは、議員間討議により、市民の関心、緊急性が高いテーマが選ばれる。次に行われるのが、「課題の調査検討」である。課題を所管する担当部局からのヒアリング。課題に関する団体等からのヒアリング。課題に関係する現場視察、現地調査。課題解決に取り組んでいる先進地視察。有識者等の専門的知見の活用が行われる。ここで特徴的なことは、団体等からのヒアリングの一環として、議会基本条例に規定された「議員と市民の懇談会」を行う際に、「ワールドカフェ」の手法を採用していることである。「ワールドカフェ」とは、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中で、4~5人の少人数のグループに分かれ、参加者の組み合わせを変えながら、自由に話し合いを発展させていく対話の手法だ。「ワールドカフェ」により、市民の多様な意見が聴取でき、参加者の満足度も高い場がつくれている。一連の調査検討を踏まえて、「政策立案等の実施判断」がされ、必要があれば「政策立案等の原案作成」が行われる。原案を基に、提言の即時性と実効性を高めるために「当局との意見調整」を実施し、再度「市民意見の聴取」を経て、最終的に「政策立案等の最終案」がまとめられる。
また、ガイドラインでは、政策提言のフォローアップについても触れられている。各常任委員会は、過去に提言した政策について、市の施策への反映状況、その施策の進捗状況、施策の適正性及び有効性を調査、評価する。政策が実施されなかった場合等には、是正措置を講じることとなっている。実際に、一般質問や委員会の所管事務調査で進捗チェックが行われている。
市内の現地視察
先進自治体の視察