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2021.04.26 議員活動

第12回 復興支援の新しい仕組み、創造的復興

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4 法的規制の緩和や手続の簡素化
 大規模災害の被災地における新たな地域づくりのために、大がかりな開発行為や事業を一気かつ迅速に行う必要があるケースがあります。その際の障害になるのが、既存の法令による土地開発や事業実施に伴う様々な法的な規制や手続です。通常の法手続では、時間や労力がかかってしまい、復興の妨げになるのです。
 このような支障を除くため、東日本大震災からの復興プロセスでは、復興特区法において、様々な法的な規制や手続の緩和が行われています。このほか、復興特区法では、2(2)で述べた復興交付金も制度化されています。
 「特区制度」は、東日本大震災以前の2002年に「構造改革特区」が制度化されたのが始まりであり、以後「総合特区」、「国家戦略特区」が創設されています。これらの制度は、いずれも根拠法が異なり、指定要件や手続等に多少の違いがみられますが、基本的には、地域活性化や経済成長の拠点づくりのために、区域を限って、自治体等の提案に基づき、既存の規制等を緩和することを政府が認めるものです(2)。「復興特区」は、復興の加速化を目的として、規制緩和の仕組みを被災地に応用したものです。特区制度が復興の加速化の手法として用いられた背景には、復興の基本的な考え方を検討するために政府が設置した「東日本大震災復興構想会議」からの提言があったとされています(3)
 復興特区法で設けられている規制緩和等は、①自治体や事業者の復興推進計画に基づく住宅、産業、まちづくり、医療・福祉等の各分野にわたる規制、手続の特例・雇用の創出等を強力に支援する税制上の特例措置(同法第3章)、②自治体の復興整備計画に基づく土地利用再編のための特例措置(同法第4章)を中心にして、このほか③県ごとの国と地方の協議会による、その他の特例の追加充実(同法12条)の大きく三つの類型があるとみることができます。
 このうち①については、国の基本方針に基づき自治体等が作成する復興推進計画を国が認定した場合に認められるもので、例えば、災害公営住宅の入居者資格(公営住宅法23条の特例)、建築基準法の用途制限(建築基準法48条の特例)や各種の税制上の特例など、個別法の特例措置の中から自治体等が復興のために必要な事業に沿うものを選択して計画に盛り込み実施する仕組みです。②についても、まちづくり等のために必要な事業として自治体が定めた復興整備計画に盛り込まれた場合に、復興特区法に掲げられた都市計画法、農地法、自然公園法などの許認可について、許認可権者や自治体等による協議会で同意された際には、ワンストップで許認可が行われるものです。①、②ともに、復興特区法に定められたメニューの中での選択であり、従来の手続をベースにしたものである点で、既成の枠内での改善ということになります。
 また、③については、①、②以外の規制について国と地方の協議会を設置して、合意が得られた場合には規制緩和措置がとられるものです。地域の実情に沿った自治体からの提案をもとにした規制緩和が可能である点では有効な仕組みと考えますが、関係者間の協議を始める要件や協議成立の基準や手続などに曖昧な点もあります。筆者も、被災地の農用地における再生可能エネルギーを活用した発電事業導入のための農地法等の規制緩和について、国との協議の場に臨んだ経験がありますが、関係者がそれぞれの主張を行い、協議が成立したかどうかは不明なまま協議会は終了し、その後、農林水産省を主管省庁とする「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(農山漁村再生可能エネルギー法)の制定により、全国規模の規制の一部緩和が行われ、自治体側からの提案が結果として実現した形になっていますが、規制緩和の可否については、国の裁量に委ねられている部分が大きいといえます。
 復興特区法は、法令の規制を弾力化し、復興の迅速化には一定の効果があったといえますが、東日本大震災の被災地を対象としたものであり、その後の熊本地震などでは適用がありません。また、復興特区法では、一応、条例による規制緩和等の仕組みもありますが、政省令の枠内でのものであり、分権的な発想での改善の議論も必要です(4)。今後、復興特区法の効果について検証し、改善と横展開が望まれます。

5 国家プロジェクトとしての取組み
 国家プロジェクトの定義や制度的な位置付けは明確ではありませんが、東日本大震災では、特に原発事故により大きく復興が遅れている福島県について、福島再生法が定められ手厚い支援を行うことが規定されています。
 この法律は、基本的には、復興特区法のスキームと同様に、国が福島復興再生基本方針を定め、復興事業を円滑に行うための規制緩和と基本方針に従い福島県が策定した福島復興再生計画を国が認定し、計画事業に対して交付金等の支援が行われることとなっていますが、福島県の被災地再生の特殊性に鑑み、国の基本計画の変更を福島県知事が提案すること(同法6条)、計画の内容に再生可能エネルギー、医薬品、医療機器、廃炉、ロボット等の研究開発拠点の整備を重点項目として明記すること(同法7条2項6号)、新たな産業創出等のための特別な措置(同法第6章)、公益社団法人福島相双復興推進機構や公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構への国の職員派遣等(同法第3章第7節、第6章第4節)など、国が地元の意向に沿って相当程度支援することが明記され、福島再生が国家的なプロジェクトであることがうかがえます。
 実際に福島県浜通り地域には、国の全面的な肝いりで大規模な水素製造施設やロボット技術の大規模な実験フィールドなどの新たな産業振興を進める「福島イノベーション・コースト構想」に基づく拠点施設の整備などが進んでいます。
 今後の南海トラフや首都直下の大地震の可能性が指摘される中、国家プロジェクトとしての被災地の復興を考える場合、福島県の事例がどこまで適用できるか、通常の国の支援とどのように区別するのかや国と自治体の役割分担をどのようにするのかなど、制度面や財政面で考えておくことも必要と思われます。
Microsoft Word - 議員ナビ(津軽石).doc

福島イノベーション・コースト構想に基づく福島ロボットテストフィールド。写真右はプラント災害でのロボット活用のための実験施設等。(福島県南相馬市、2019年9月筆者撮影)

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