2021.04.12 議員活動
第7回 実施と議会
16 結び
夏目漱石の『草枕』ではないが、「智に働けば角が立つ 情に棹(さお)させば流される 意地を通せば窮屈だ 兎角(とかく)に人の世は住みにくい」と感じる議員もあろう。しかし、決定過程だけでなく実施過程でも、当該政策(自分の信念)を志向する議会・議員の存在が必要になる。当該政策(自分の信念)を志向する議会・議員には、自己を改革することも求められよう。議会改革においても同じことがいえる。議会には、市民や行政とのコミュニケーション・ギャップを防ぎ、市民と議会と行政など関係者の間を結ぶこと、翻訳者としての機能を果たすことも求められる。本田哲也が指摘するように、政策をめぐる論争において政策担当者らの意図がそのとおり伝わることなく、世間一般には異なった解釈が流布することも多くある(本田 2019:238)ことは、政策に関わる議会・議員にとっても留意すべきことである。ここにも、議会・議員の役割があるといえよう。議会という一本の糸は細いかもしれないが、市民・議会・行政の組み紐(ひも)は、組み合わさって強くなる。議会は、組み紐になっていなければならない。
(1) 市民や市民政策については、土山 2018に詳しい。そこでは、市民は公共政策の直接の主体としての存在を大きくしていること、公共政策は何よりも自治の営為であることが論じられている。
(2) https://www.city.otsu.lg.jp/material/files/group/129/2018050211T_x4_Part4.pdf(2021年3月19日確認)。
(3) 多くの場合、行政職員の人事異動ローテーションの一環として議会事務局職員の人事異動ローテーションがあるように見受けられる(階層別研修においても議会事務局職員は行政職員の階層別研修のローテーションに組み入れられている)。ただし、議会事務局職員の人事異動については、任命権者である議長も行政と議論を交わすことが求められる。
(4) 別海町議会が土山希美枝教授(龍谷大学)、西科純氏(議会技術研究会共同代表)、堀尾正靭名誉教授(東京農工大学)を講師とする一般質問研修会と議論を踏まえ、一般質問の前後における質問事項の議会としてのブラッシュアップと課題解決のための議論を行っている。詳細は、別海町議会のホームページ「一般質問研修会」を参照(https://betsukai.jp/gikai/inspection_and_training/R01_inspection_and_training/R01_03_inspection_and_training/)(2021年3月19日確認)。
■参考文献
◇秋吉貴雄(2017)『入門 公共政策学』中央公論新社
◇伊藤修一郎(2015)「公共政策の実施」秋吉貴雄=伊藤修一郎=北山俊哉『公共政策学の基礎〈新版〉』有斐閣、209~229頁
◇金井利之(2019)『自治体議会の取扱説明書─住民の代表として議会に向き合うために─』第一法規
◇土山希美枝(2018)「市民」「自治」石橋章市朗=佐野亘=土山希美枝=南島和久『公共政策学』ミネルヴァ書房、65~111頁
◇南島和久(2018)「実施」石橋章市朗=佐野亘=土山希美枝=南島和久『公共政策学』ミネルヴァ書房、163~183頁
◇藤井誠一郎(2020)「清掃事業の委託化政策」佐野亘=山谷清志監修、焦従勉=藤井誠一郎『政策と地域』ミネルヴァ書房、143~167頁
◇本田哲也(2019)「文部官僚オーラル・ヒストリー」御厨貴『オーラル・ヒストリーに何ができるか』岩波書店、225~244頁
◇村田和代(2020)「リーダーの談話分析─リスクコミュニケーションの視点から」地域協働vol.16、龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター、9~11頁