2021.04.12 議員活動
第7回 実施と議会
10 「自治体政府のジレンマ」と「政策資源としての時間」
「第一線職員」は、伊藤が指摘するように、様々なジレンマの中で業務を行っている。そのため、難しい判断をすることにもなる。表3に示したのは、第一線職員のジレンマの例であるが、第一線職員のジレンマは第一線職員を内包する自治体政府(議会・行政)にとってもジレンマである。また、そのほかにも、表4に示したようなジレンマが議会や行政には少なからずある。議会、行政ともに、このようなジレンマの中で市民のために政策を模索することになる。そのためには、議論(話し合い・対話)の繰り返しで、コミュニケーションを行いつつ、お互いに少しずつ理解を重ねるしかないであろう。このことは、互いの立場やこれまで行われてきた政策の文脈を前提にすれば、むしろ当然のことであるかもしれない。このことは、実施においても時間が重要な政策資源であることを表している。
出典:伊藤 2015:215-216をもとに筆者作成
表3 第一線職員のジレンマ、自治体政府(議会・行政)のジレンマの例
出典:筆者作成
表4 自治体政府(議会・行政)のジレンマの例
11 事業途中での決定(事業変更)
人口減少により、学校、水道、下水道、ごみ処理等の施設については、土地、建物、設備の計画について変更が生じることが多い。これらの施設計画は、用地の確保や建物・設備の設計・施工などの準備期を含めて、その稼働期間は長期にわたる。そのため、人口の状況を踏まえ、耐用年数の長いこれらの施設については、事業途中での決定(事業変更)を考えなければならないことが多くなる。議会には、行政が適正な事業途中での決定(事業変更)を行っているか制御することが求められる。
12 クリーミング
「第一線職員」を業務の達成度評価によって管理することは難しい。伊藤が述べるように、第一線職員は、その分野の専門家として一定の自律性を有している。上司が管理しようとしても専門知識を盾に抵抗することがある。また、対人サービスについては、達成基準を設けることが難しい。評価のための尺度を工夫しても、職員は測定される数値が上がるように仕事をするようになる。例えば、事業の処理件数を評価基準とすれば、重要だが処理が難しい事案を避け、処理が安易な事案ばかりを選ぶようになる。これをクリーミングという(伊藤 2015:217-218)。上司は、このようなことが発生しないように、政策の実施過程においても注意を要する。議会においては、どのような評価基準を設定することが必要かを模索することも求められる。そうしないと、行政の適正な政策実施を制御できなくなってしまうからである。