2021.03.25 議員活動
第11回 特殊な災害等への自治体の対応
まとめ(議員としての着眼点はここだ!)
第11回では、特殊な災害としての側面を持つ原子力災害と感染症への対応を中心に学びました。ここでは、以下の3点を着眼点として指摘したいと思います(9)。
1 特殊災害への対応における縦割りの壁を低くする工夫を
原子力災害や感染症などによる健康危機管理に関わる対応は、専門的な知見が必要な分野で、自治体行政では、縦割りの弊害により担当部署に任せきりになりがちです。しかし、大規模な事案になると、住民生活や地域経済の広範な部分に影響が生じる場合があります。自治体組織全体の政策やマネジメントに関係することもあります。このような場合には、首長のリーダーシップが十分に機能するように、危機管理やマネジメントを担当する部署が参謀としての機能を発揮するとともに、リエゾンと呼ばれる組織間のつなぎ役を有効に機能させ、現場が有効に機能できるようにすることが重要です。
2 持続可能な危機管理体制の維持を
原子力災害も健康危機管理も、通常の自然災害と比較すると応急対応に関わる期間が長く、全体の危機管理部署も、現場対応の部署も、職員の疲弊が懸念されます。通常業務を抱えながら応急対応を臨時的に行う体制は、これまでの大規模災害の例などから、1か月程度が限度であり、速やかに専担部署を立ち上げ、持続可能な体制を確立することが、首長をはじめとする自治体の幹部の大切な役割です。
3 防災から危機管理、復興への仕組み構築を
新型コロナウイルス感染症への自治体対応をみると、前述のように大規模災害への対応と類似している点が多々あります。今後も想定される未知の感染症やテロの発生などを考えると、従来の自然災害に重点を置いた自治体の危機管理に対する認識を見直し、新たなリスクへの対応を広範に考えるべき時が来ているといえます。同時に、これらのリスクから地域を立て直すシナリオづくりも仕組みとして考える必要があります。一部の自治体では、「防災条例」が制定され、災害から地域を守り、復興させる仕組みを制度として持っているところがありますが、さらに発展させて、総合的な「危機管理条例」も今後必要になるものと考えます。
(1) ここで「一生」分とは、具体的には、大人は50年、子どもは70歳になるまでの年数を指しています。
(2) 東京電力ホームページ「福島第一原子力発電所各号機の状況」(https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/about/index-j.html)参照。
(3) 原子力規制委員会「原子力災害対策指針」(2020年10月28日改訂)(https://www.nsr.go.jp/data/000332851.pdf)、内閣府大臣官房原子力災害対策担当室=消防庁特殊災害室「地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル(改訂版)」(2012年12月12日)参照。
(4) 放射性物質濃度が1キログラム当たり8,000ベクレル以下の除染廃棄物については、飛散流出等のおそれがないように保管、最終処分することができるとされています。また、1キログラム当たり8,000ベクレルを超えるもので環境大臣が指定したものは「指定廃棄物」として、国の責任で管理することとなっていますが、福島県以外では、現状では国は台帳管理等を行うのみで、保管場所の確保や日常的管理、周辺住民への状況説明などは地元自治体が実施しているのが実情です。
(5) 厚生労働省「厚生労働省健康危機管理基本指針」(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/kenkou/sisin/index.html)参照。
(6) 内閣官房「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律の概要」(https://corona.go.jp/news/pdf/tokuso_gaiyou_r3.pdf)。
(7) 一般財団法人地方自治研究機構ホームページ「条例の動き『4. 新型コロナウイルス』」(http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/022_COVID_19.htm)。
(8) 東京都は、2020年4月に制定した「東京都新型コロナウイルス感染症のまん延の影響を受けた者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する条例」を、同年6月「東京都特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する条例」に改正しています。
(9) 津軽石昭彦「コロナ危機からの復興で自治体と自治体職員に何が求められるか──東日本大震災の体験を踏まえて」ガバナンス2021年1月号参照。
バナー画像:筑波山より関東平野 ©E0170(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))を改変して使用