2021.03.25 議員活動
第11回 特殊な災害等への自治体の対応
第22講 感染症等による健康危機への制度的対応
全国の自治体では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が大きな課題となっています。ここでは、感染症を中心とした自治体における健康危機管理について、法制度の面から考えます。
1 自治体における「健康危機管理」と「災害対応」の類似性
そもそも「健康危機管理」とは、「医薬品、食中毒、感染症、飲料水その他何らかの原因により生じる国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防、拡大防止、治療等に関する業務」(5)とされ、「その他何らかの原因」とは、大規模自然災害、毒物・薬物による犯罪やテロ、大規模なコンピュータシステム障害など、不特定多数の人々の健康に関わるリスク全般を含むと解されています。また、大規模な健康危機管理事象に対して、自治体は、地域の社会経済活動全般に対する対応も求められます。
大規模な健康危機管理に関わる事象は、災害対策基本法など法律上の災害とは位置付けられていませんが、リスクが突然発生し、多くの住民の生命、身体に対して危険が生じ、場合により地域の住民生活や経済にも影響が生じる可能性があり、自治体の広範な対応が求められるという点では、「災害」と共通したものといえます。
また、自治体対応の側面でも、原因や方法論は異なりますが、予防対応、初期対応、事後対応のステージも同様であり、特に事後対応については、地域住民の安全・安心の確保、健康被害を受けた住民への支援、影響を受けた地域経済の復興という点で、類似の政策メニューも多く、防災・復興政策のノウハウが応用できる点が多々みられます。
2 自治体の感染症対応に関わる法的構造
新型コロナウイルス感染症を中心とした感染症関係の法律の適用関係についてみてみましょう。
なお、感染症対策には、外国からの入国者などに適用される検疫法も重要ですが、自治体行政との直接的な関係性が薄いことから、ここでは割愛します。
(1)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による対応
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という)は、一般には「感染症法」、「感染症予防法」などと呼ばれ、もともとあった「伝染病予防法」、「性病予防法」、「エイズ予防法」が1998年に統合、新規制定されました。その後、2007年に旧「結核予防法」が統合され、2021年2月に新型コロナウイルス感染症防止対策のための改正が行われています。
感染症法では、感染症を、感染力の強さと感染した場合の重篤化の可能性に応じて、第1~5類、新型インフルエンザ等感染症等に分類し、それぞれの分類に応じて、医師の診断時の届出などによる情報収集・公表、感染者等に対する健康診断、検体採取、入院、就業制限等の措置、建物の消毒、交通遮断等の措置、感染症に対応した医療機関の指定など、感染症のまん延防止と治療に関する仕組みが定められています。
今回の新型コロナウイルス感染症については、本年2月の改正(6)で、主に次のような改正が行われました。
① 新型コロナウイルス感染症を「新型インフルエンザ等感染症」とし、法的位置付けを明確にしたこと。
② 法的位置付けが明確でなかった宿泊療養・自宅療養の協力要請について規定したこと。
③ 入院勧告・措置の対象を明示し、正当な理由がなく入院措置に応じない場合又は入院先から逃げた場合の過料(50万円以下)を規定したこと。
④ 新型インフルエンザ等感染症の患者等が積極的疫学調査に対して正当な理由がなく協力しない場合、応ずべきことを命令できることとし、正当な理由がなく調査拒否等をした場合の過料(30万円以下)を規定したこと。
⑤ 緊急時に医療関係者(医療機関を含む)・検査機関に協力を求められ、正当な理由なく応じなかったときは勧告、公表できることを規定したこと。
新型インフルエンザ等感染症に新たに位置付け、無症状感染者等に対してホテル療養や自宅療養等の協力要請をする法的根拠を明確にし、罰則も含めて対応できるよう改正が行われました。
(2)新型インフルエンザ等対策特別措置法による対応
「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という)は、2009年に発生した新型インフルエンザの経験を踏まえて、新型インフルエンザのような感染力の強い感染症の発生時を念頭に、国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小限に抑える観点から2012年に制定されました。この法律では、新型インフルエンザ等のまん延に備えた政府、自治体の行動計画の策定、物資及び資材の備蓄のほか、まん延時の政府、都道府県の対処方針の策定、関係機関・事業者等への要請、緊急事態宣言、宣言時における営業自粛要請等の特別措置などが定められています。
感染症法が感染者等を対象とした感染症まん延防止に重点が置かれているのに対して、特措法は、国民生活や経済も考慮し、一般国民や事業者なども対象とした危機管理的な要素がみられ、緊急時の対処方針策定とこれに基づく対応を国民に求める点で国民保護法制に、自治体を中心とした応急措置や公用負担などを国民に求める点で災害法制に類似している点がみられます。
今般の新型コロナウイルス感染症については、特措法の附則により、同法2条1号の新型インフルエンザ等とみなして、時限的に同法の適用を認める改正が2020年3月に行われ、これに基づき、都道府県知事による各種要請(同法24条9項)、内閣総理大臣による緊急事態宣言(同法32条1項)、都道府県知事による外出自粛要請(同法45条1項)、事業者等への営業自粛要請(同条2項)、要請に従わない場合の措置(同条3項、5項)が行われています。さらに、本年2月の改正では、次のようなより強力な措置をとることが可能となっています。
① 特定の地域において、まん延を防止するため「まん延防止等重点措置」を創設し、営業時間の変更等の要請、要請に応じない場合の命令、命令違反への過料(20万円以下)を規定したこと。
② 緊急事態宣言中の施設の使用制限等の要請に応じない場合の命令、命令違反への過料(30万円以下)を規定したこと。
③ 差別の防止に係る国及び自治体の責務規定を設けたこと。