2021.03.25 議会改革
第18回 議員の懲罰等とそのあり方
4 辞職勧告決議等
自治体議会は、議決事件を議決するだけでなく、その意思を表示するために決議を行うことがあるが、この決議は、基本的に、法的効果を伴わない事実上のものとされる。辞職勧告決議は、議員や長に対してその地位・身分にふさわしくないとして辞職を促す議会の意思表示であり、法的拘束力はなく、対象となった者はそれに従う義務を負うものではない。議員に対する問責決議ないし反省・謝罪を求める決議なども同様である。
辞職勧告決議や問責決議は、不祥事等を起こした議員や長が政治的責任をとらない場合などに行われるもので、それに対する議会の意思を明示して、対象者を非難し対応を迫るものであり、そのことによって住民に情報を提供し、住民による批判を助長することも狙いとするものといえる。その一方で、事実上の効果にとどまるとはいえ、選挙で選ばれた議員や長の身分について通常の過半数での決議により辞職を迫ることや、懲罰については議会内の秩序維持のためのものとして事由が限定されているのに対し議会外での議員の個人的行為も対象となるなど事由に制限がないこと、さらに勧告対象となった者がこれを拒否・無視した場合やその後の選挙で当選した場合の議会の権威低下の懸念の問題なども指摘されている。
実際に、それらの決議には従わないのが大半であり、何度も辞職勧告を繰り返す例なども散見されるほか、辞職に値するとは思えない理由により辞職勧告決議が行われるようなこともあるようだ。自治体議会による辞職勧告決議は、インターネットで検索しただけでも、かなりの数が行われていることが看取され、個別の事案については事実に即した十分な検証が必要とはいえ、中には、排他的・恣意的・感情的なものであるとして問題となる事例も見受けられる(4)。辞職勧告決議や問責決議は、会議録や議会広報に掲載されるだけでなく、メディアによっても報道され、住民も知るところとなり、対象となった議員の社会的評価を低下させることにもつながりかねないことから、法的紛争にまで発展するケースも増えている。
例えば、音戸町議会辞職勧告事件・最判平成6年6月21日判時1502号96頁は、町議会において議員に対し町有地を不法に占拠しているとして委員会での陳謝等を求める決定や議会として議員辞職勧告決議をしたことが議員に対する名誉毀損に当たるとして提起された町を被告とする国家賠償請求に関し、法律上の争訟に当たり、当該決議等が違法であるか否かについて裁判所の審判権が及ぶとした上で、当該決定や辞職勧告決議が当該議員の社会的名誉を不当に傷つけるものであって町議会等の権限を逸脱する違法なものであるとして慰謝料の支払を命じた原審の判断を認容した。また、昭島市議会辞職勧告事件・東京地裁八王子支判平成3年4月25日判時1396号90頁は、同様の立場に立ちつつ、外国女性の人身売買・売春あっせんに関係したとして市議会が当該議員に対する辞職勧告を決議したことについて、当該決議は、当該議員の名誉を毀損し、また、その性質上強制力を有するものではないものの公権力の行使に当たり、決議に際し市議会議員がその職務を行うについて少なくとも過失があったと推認できるとして国家賠償責任を認め、市に慰謝料の支払を命じている。
先の厳重注意処分に関する名張市議会賠償請求事件最高裁平成31年判決などと考え合わせると最高裁の論理はかなり分かりにくいが、どうやら、議員の議会外の個人的行為等に関する懲罰的措置や辞職勧告決議は一般市民法秩序に関係するものとして司法審査の対象とする一方、議会における議員としての行為に対する懲罰や懲罰的措置・辞職勧告決議等については、除名や出席停止の懲罰を除き、内部規律の問題として自治的措置に任せ司法審査の対象外とするもののようだ(5)。いずれにしても、辞職勧告決議や問責決議の中には、議員の個人的な事柄まで取り上げ侮辱的な表現をとっているものなども見受けられ、このような場合には当該決議の違法性が認められる可能性を高めることにもなりうるといえるだろう。
辞職勧告決議や問責決議は、非難性の高い犯罪により起訴され有罪判決を受け、これにより政治に対する住民の不信が高まっているような場合であればともかく(6)、辞職や謝罪に値する理由や合理的な理由がないにもかかわらず、議員などを辞職や謝罪に追い込もうとするのは、議会の機能やあり方として果たして妥当なのかどうか疑問であり、ましてや多数派に同調しない少数派の抑圧・排除の手段として利用されるようなことは、議員の活動の自由を制限し、活動の萎縮につながったり、住民の多様な意見の反映を阻害することにもなりかねず、地方自治の理念に反するものというべきだろう。
なお、議員が議会外の行為について辞職勧告決議等を受け、これに従わない場合に、それを理由として懲罰を科すことは、議会外の行為について懲罰を科すに等しく、できないものと解されている。