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2021.03.25 議会改革

第18回 議員の懲罰等とそのあり方

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(3)懲罰が違法とされた例
 これまで、裁判所が除名の懲罰を取り消したものとして、諏訪市議会除名事件・最判昭和26年4月28日民集5巻5号336頁、安堵村議会除名事件最高裁昭和28年判決があるほか(3)、丸瀬布町議会除名事件・最判昭和34年2月19日民集13巻2号193頁は、議員の町議会における発言の内容が、議会に対する協力の態度を欠き、不徳のそしりを免れない場合であっても、その発言が会議規則所定の議会を冒涜(ぼうとく)し、その体面を汚すものであり、しかもその情状が特に重いとは認められないとして除名処分を違法とした。また、札幌市議会除名事件最高裁昭和27年判決は、議員の議会において使用した言葉が地方自治法132条所定の「無礼の言葉」に該当するか否かは、法律解釈の問題であり、その解釈を誤りこれに基づき議員を除名したような場合には除名そのものも違法たるを免れないとして、除名処分を取り消した札幌高判昭和25年12月25日行裁例集1巻12号1754頁の判断を支持したものだが、札幌高裁判決はその中で次のように述べている。「言論の自由は日本国憲法の厳に保障するところであるが、とりわけ普通公共団体の議員はその住民の代表として選挙せられ議会において言論をすることをその重要な職務とするものであつて、その言論については、他人の私生活にわたるものを除き、十分にその意を尽し民意を反映せしめなければならない。ゆえに、その発言を無礼の言葉であるとして議員に懲罰を科するには慎重の考慮を要するのであつて、若しかようの懲罰権が濫用されるならば議員の言論はやがて自由を失い、かえつて議会の使命の達成を阻む結果を招来する」、「無礼の言葉を解するのに社交上の儀礼を標準としてはならない。かようの儀礼に反する言葉をすべて無礼の言葉というならば、議員の言論の自由は著しく制約せられてしまうであろう。議員の発言が無礼の言葉であるといわれるには、議員が附議された事項……についての意見や批判の発表に必要な限度を超えて議員その他の関係者の正常な感情を反撥する言葉であり、附議された事項について自己の意見を述べ又は他の議員等の意見等を批判するについて必要な発言である限り、たとえ、その措辞が痛烈であつて、これがために他の議員等の正常な感情を反撥しても、それは議員に許された言論によつて生ずるやむをえない結果であつて、これをもつて議員が同条にいう無礼の言葉を用いもの(原文ママ)と解することはできない」。
 このほか、議員の欠席による懲罰について、板橋区議会除名事件・東京地判昭和28年9月30日行裁例集4巻9号2146頁が、欠席がやむをえない事情によるものか正当の事由なくしてなされたものであるかは単に形式的に欠席届の提出がなされていたか否かによって定まる事柄ではないとした上で、女性議員が子女の病気看護のために無届で会議に欠席し招状を受けても出席しなかったことは、正当の事由がないとはいえないから、これを理由として除名することは違法であるとしたことも挙げておきたい(東京高判昭和30年2月28日行裁例集6巻2号369頁もこれを支持。ただし、上告審の最高裁昭和35年3月9日判決は、議員の除名処分の取消しについては、任期満了により訴えの利益が失われることになるとの判断を示すにとどまった)。
 最近の例では、篠山町議会除名事件・大阪高判平成10年12月1日判タ1001号143頁が、他の議員に対する懲罰処分要請書の中で不適当な表現を使用した町議会議員に対する除名処分につき、同人の言動には過激に過ぎ、品位を欠き、他人に対する侮辱を含むなどの問題点を指摘できるが、それらは、自らの政治的信念に出たものと評価でき、他の議員にとって不愉快ではあっても議会の運営を妨げたとまではいえず、住民が議員として適切として選んだ意思を否定するほど不適切な言動があったとすることはできず、懲罰を科すことが相当であるとしても除名処分を科するのは町議会の裁量権の濫用であるとして、除名処分を取り消した。このほか、町議会議員に対する除名処分について、理由とされた利益誘導発言があったとはいえず、また、発言が地方自治法132条所定の「無礼の言葉」を使用した場合には当たらず、議会の品位をいささか傷つけたとしても、除名の懲罰をもって臨むことは著しく重きに失し、社会通念上著しく均衡を欠くことが明らかであり違法であるとした裁判例(川島町議会除名事件・高松高判平成11年9月30日判例地方自治208号42頁)、陳謝処分に従わず、議長に命じられた陳謝文の朗読を行わなかったという懲罰事由に対して選択された町議会議員の除名処分は、社会観念上著しく妥当性を欠くものといわざるをえず、議会の自律権に基づく裁量権の範囲を超え又は濫用したものであるとした裁判例(美浜町議会除名事件・名古屋高判平成25年7月4日判時2210号36頁(最決平成26年9月5日により確定))などがある。
 除名の懲罰が審決や判決によって取り消された場合には、当該議員の地位は除名のときにまで遡って回復することになる。その際には、議会で就いていた役職も回復するのであり、この点、野辺地町議会議長除名事件・最判昭和62年4月21日判時1286号41頁は、町議会の議長たる議員に対してなされた議会の除名処分が都道府県知事の審決により取り消された場合に、除名処分から審決までの間に議会の選挙により後任の議長が選出されているときであっても、当該議員は議員の職とともに議長の職をも回復するとの判断を示している。このほか、その間における議員報酬等を請求することができることはもちろんである。
 ところで、除名や出席停止の懲罰を争う場合には、その取消しだけでなく、執行停止の仮処分を求めることも考えられる。
 この点、旧行政事件訴訟特例法10条2項ただし書による内閣総理大臣の異議に関する最大決昭和28年1月16日民集7巻1号12頁は、自治体議会議員の除名に対し裁判所が執行停止を命ずる決定を当然なしうるとする前提に立つものである。また、川島町議会議員除名執行停止事件で、最決平成11年1月11日判時1675号61頁は、第一審が執行停止を認めたことを維持するなどした高松高決平成10年10月28日判タ1015号117頁を是認し、議員の除名処分の効力停止決定が裁判所によってなされたときには、除名処分の効力は将来にわたって存在しない状態となり議員の地位が回復されることになるので、相手方の除名による欠員が生じたことに基づいて行われる繰上補充による当選人の定めはその根拠を失うことになり、当該決定に拘束される関係行政庁である町選挙管理委員会は、繰上補充による当選人の定めを撤回し、その当選を将来に向かって無効とすべき義務を負うとした。

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