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2021.02.25 政策研究

第11回 地方性(その2)

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自治都市の系譜

 著名なマックス・ウェーバーの「都市の類型論」では、理念型としての都市とは、中世西洋(特にドイツなど北欧)に見られた「自治都市」である。都市とは、①城砦(じょうさい)(Befestigung)、②市場(Markt)、③自主法権(独自裁判権 eigenes Gerichtと(部分的な)独自法 eigenes Recht)、④結合性(Verband)、⑤市民身分による自律性(Autonomie)、を標識要件とする(5)。①の城壁(Burg)による自主防衛をする人間を「市民(Burger)」(直訳すれば「城民(しろのたみ)」)とする軍事面を重視するのか、自らが農業生産することではなく、自らは商工業生産に従事し、後背地での農業生産物を市場(Markt)で交換することで生業(なりわい)・生活する人間を「市民(いちのたみ)」とするように、経済面を重視するのか、必ずしも論理的に整合するとは限らない。ともあれ、そうした武装商人という市民身分集団が、自主法権を持つ団体(結合性)の支配を自ら担うところに、都市の特徴がある。つまり、都市とは、常に自治都市である。
 ウェーバーの都市論は、都市=自治都市は中世西洋に典型的に見られ、それが近代社会(資本制と官僚制)の担い手である市民を生み出すという西洋中心的世界観(偏見)に満ち満ちているのであるが、ともあれ、東洋の「都市」には、③④⑤が欠けていたとされる。江戸体制の江戸や大坂という「都市」も、しょせんは町方支配であるし、そもそも、身分で管轄が分かれていたので都市としての自主法権も結合性もない。さらに、中国は①を持つ「城市」であるが、日本の「都市」は①を持たない「城下町」(城の石垣・濠(ほり)の外という意味では「城外町」)が多く、町人による自主防衛などはおぼつかない。ヨーロッパの都市はライデンのように籠城戦をするが、江戸はあっさり無血開城である。このように見れば、日本には都市=都市自治はなく、それゆえ、地方的地方自治の原像が優勢になるというのは、通念としては分かりやすい。
 もっとも、そうした地方的地方自治=地方自治を優先する見方には、疑念もあり得よう。第1に、西洋中世と比較するならば、日本も中世(室町・戦国時代など)を比較すべきであり、この時代には、堺、今井などの、環濠を持った自治都市は存在していた。西洋近代社会も、基本的には君主による主権国家への集権化によって、都市自治は失われていく。近世日本でも、天下布武(織田信長)から元和偃武(げんなえんぶ)(徳川家康)を経た江戸体制の確立によって、都市自治が失われるのは自然ともいえる。近世の失われた都市自治と、中世の都市自治を比較して、前者を東洋に当て、後者を西洋に当てても、意味は乏しい。
 第2に、近世・近代の全国政権(公儀・維新政府)・地方政権(諸大名)の支配によって、中世的な都市自治が制限されるとしても、そうした支配が及んだのは、農村の地方自治においても同じことである。逆にいえば、公儀や諸大名が、限られた武士身分の為政者によって、農村・都市への支配を浸透させることはできず、何らかの形で、百姓・町人の「自治」に委ねざるを得なかった。地方的地方自治(地方自治)があるならば、都市的地方自治(都市自治)も必然として存在したわけである。しかし、地方出身者が政権を握った明治以降の近代日本では、あえて前者を重視して選択してきたということであろう。

(1) 佐藤草平「都区制度における一体性と財政調整制度─経路依存性からみる都市空間としての一体性と三部経済制および都区財政調整制度」自治総研2011年2月号、67~94頁。特に75頁以下。
(2) 戦前には「三都」(=東京市・大阪市・京都市)、「六大市」(上記三都に加えて、横浜市・名古屋市・神戸市)と呼ばれるのが大都市とされることが多かったので、広島市を含むのは興味深い。
(3) なお、このほかに「地方」が使われるのは、「地方独立行政法人」への言及のときである(17条)。
(4) 法律の書き方としては「市町村」となっているが、「市町村(特別区を含む。以下この条において同じ。)」(10条)というまどろっこしい書き方で、要するに、市区町村ということである。
(5) マックス・ウェーバー〔世良晃志郞訳〕『都市の類型学』(創文社、1964年)。ウェーバーの都市論については、三浦賜郎「マックス・ウェーバーの都市論について」社会問題研究3巻3号(1953年)32~51頁、田中豊治『ヴェーバー都市論の射程』(岩波書店、1986年)、小笠原眞「マックス・ヴェーバー都市論の再検討─なぜ社会学者はこの研究を不当に無視してきたか─」人間文化(愛知学院大学人間文化研究所紀要)21号(2006年)336(1)~319(18)頁、相澤隆「ウェーバーの都市論と近年のドイツ中世都市論」Odysseus(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻紀要)18号(2013年)1~8頁、など紹介文献も多い。

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