地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2021.02.25 政策研究

第11回 地方性(その2)

LINEで送る

「地方消滅」と「地方創生」

 大都市圏・東京圏ではないという意味での「地方」は、例えば、2014年から大きな関心を集めた「地方消滅」と「地方創生」に典型的に見られる用語法である。「地方消滅」とは、御用系「民間」人が形成した「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」(座長:増田寛也氏=元岩手県知事・元総務相・元東京都知事候補・現日本郵政社長)が、2014年5月に公表した『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』(通称、増田氏レポート)に由来するものである。
 それによれば、2040年に20~39歳の女性の数が49.8%の市町村で5割以上減る。推計対象の全国約1,800市町村のうち523市町村では、人口が1万人未満となって消滅するおそれがある。こうした「消滅可能性市町村」は、主に地方圏で発生する。出生率は東京圏では著しく低いので、東京圏の経済成長は地方圏からの人口流入によって支えられてきた。それゆえ、地方圏の少子化は東京圏の衰退にもつながる。そこで、地方圏の少子化問題の解決が、東京圏あるいは日本全体にとっても必要である。出生率は地方圏の方が今日でも東京圏より高いので、日本社会全体の人口を増やすためには、地方圏に若い世代が移住して、出生することが大事である。そのため、地方圏に若者が移住できるように地方圏の元気を回復する必要がある、というものである。同レポートを中公新書で解説したときには、端的に『地方消滅』(2014年8月)というタイトルになっている。

「地方創生」と「まち・ひと・しごと創生」

 こうして「地方創生」が第2次安倍政権の政策課題として採り上げられ、2014年9月召集の臨時国会は「地方創生国会」となった。しかし、最終的に同年11月に成立したのは、「まち・ひと・しごと創生法」であり、「地方創生法」ではない。
 同法1条では、「我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくためには、国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進すること」を「まち・ひと・しごと創生」と定義している(下線筆者、以下同)。
 同法2条は、「まち・ひと・しごと創生」の「基本理念」として、
(1) 国民が個性豊かで魅力ある地域社会において潤いのある豊かな生活を営むことができるよう、それぞれの地域の実情に応じて環境の整備を図ること。
(2) 日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスについて、その需要及び供給を長期的に見通しつつ、かつ、地域における住民の負担の程度を考慮して、事業者及び地域住民の理解と協力を得ながら、現在及び将来におけるその提供の確保を図ること。
(3) 結婚や出産は個人の決定に基づくものであることを基本としつつ、結婚、出産又は育児についての希望を持つことができる社会が形成されるよう環境の整備を図ること。
(4) 仕事と生活の調和を図ることができるよう環境の整備を図ること。
(5) 地域の特性を生かした創業の促進や事業活動の活性化により、魅力ある就業の機会の創出を図ること。
(6) 前各号に掲げる事項が行われるに当たっては、地域の実情に応じ、地方公共団体相互の連携協力による効率的かつ効果的な行政運営の確保を図ること。
(7) 前各号に掲げる事項が行われるに当たっては、国、地方公共団体及び事業者が相互に連携を図りながら協力するよう努めること。
を掲げている。
 一見明白なように、「地方」という用語よりは「地域」が好まれている。確かに、「東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保」するとあるので、「地域」とは非東京圏を指しているかもしれない。つまり、「地方」=「地域」という、単なる言葉の置き換えのようにも見える。しかし、すぐ後に続けて、「将来にわたって活力ある日本社会」とあるように、「それぞれの地域」の総和が「日本社会」なのであって、非東京圏に限られず、東京圏を含めた日本全国の全ての地域なのである。
 実は、同法で「地方」が使われるのは、「地方公共団体」という法律用語である(3)。端的にいえば、都道府県と市区町村ということであり、それぞれが、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定する(同法8条、9条)。いうまでもなく、ここでの「地方」は、「国」に対置する用語である。その意味で、「地方創生」は、非大都市圏・東京圏に限らず、国ではなく、全ての自治体の任務とされている。消滅可能性が高い地方圏(=非東京圏)のみが行うものではない。それゆえに、「地方圏」だけをイメージしかねない「地方創生」を避け、漠然と「まち・ひと・しごと」というやまと言葉が選ばれている。要するに、全ての地域の全ての自治体ということである。
 むしろ、「都市」と対置される「地方」が、マチに対するムラを指すのであれば、「まち・ひと・しごと」という用語は、「地方」とは反対の「都市創生」を意味しかねない。確かに、増田氏レポートは、地方圏(=非東京圏)の人口増加が、東京圏への人口流出の母体であり、東京圏の経済成長の淵源(えんげん)であって、東京圏の再生のために非大都市圏で地方創生をする、という論理なので、あながち間違いとはいえないかもしれない。実際、増田氏は東京都知事になりたかったわけである。法律名称からも、東京圏第一(東京ファースト)という本音が透けて見える、と深読みすることもできよう。とはいえ、同法の「まち・ひと・しごと」は、東京圏・地方圏に限らず、全ての「地域」、すなわち、「都道府県の区域」(9条)及び「市町村(4)の区域」(10条)のことである。そして、その地域社会のイメージは、農村的ではない。「しごと」がつくれれば「ひと」が集まって「まち」が維持できる、という都市産業的あるいは「経済優先・就労第一(ワークファースト)」的なイメージではある。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る