2021.02.25 議員活動
第10回 産業復興や雇用を支援する仕組み
まとめ(議員としての着眼点はここだ!)
第10回では、大規模災害時の産業復興と雇用政策を中心に学びました。ここでは、以下の3点を着眼点として指摘したいと思います。
1 二重ローン対策の認知度と活用を高めよう!
二重ローンとは、被災事業者や被災者が、発災前から事業展開や住宅建設等のための借入金がある場合に、その借入金を返済しないうちに災害による被害を受け、投資した財産を失い、そのために再び借入れをしなければならない状況に陥り、二重にローンを抱えてしまう状態のことを指します。二重ローンは事業者等の再建の負担となるため、地域経済全体への中長期の潜在的な影響が懸念されます。
これに対しては、東日本大震災後の2011年11月に「株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法」(二重ローン救済法)が成立し、同機構が東日本大震災の被災事業者の債務を買い取り、債務の繰延べ等の支援を行う仕組みを整備したほか、同機構とは別に、震災の被災地域で事業者への債務買取り等の支援を行う産業振興機構が設立されています。
また、個人の債務については、国や金融機関等による「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」が定められ、被災により返済金の支払が不能となった個人に対して、債権者と債務者間の同意に基づく「私的整理」により、円滑な債務整理(4)が行われる仕組みが整備されました。後にこのガイドラインの仕組みは、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」として、他の自然災害にも適用されるようになり、熊本地震の際にも適用されています。
このように、一応、二重ローン問題に対する仕組みは整備されてきていますが、その認知度は低く、あまり活用されていません。特に個人ローンに関しては、自治体や地域の金融機関等が連携して周知に努めていくことが求められます。
2 復興計画で将来の地域産業の姿を描こう!
大規模災害に見舞われた自治体では、復興の道筋を示すために復興計画を策定する例が多くなっています。産業復興に当たっては、単に以前の状態に戻すのではなく、地域産業の特性を生かし、復興計画の策定を通じて地域産業の将来像を示し、それに向かって産業の復興を図っていくことが大切です。
東日本大震災の被災地では、もともと水産加工が盛んであった特性を生かして、従来の加工場よりも衛生的で高付加価値な製品を加工できるような設備を備えた加工施設が整備され、ソフト面でも異業種のトヨタ生産方式を導入し、これまでの水産加工場のイメージが一新されました。その結果、地元の若者たちの就職希望が増えているということです。産業復興の明るい将来像を示すことが、雇用の面でも相乗効果を生むということがいえます。
3 産業復興や被災者支援と連携した段階的雇用政策を図ろう!
平時の雇用政策は、経済状況に合わせて発生する失業者に対して、再就職や職業訓練の紹介をするのがメインですが、災害時には、一度に多種多様な大量の休業者や失業者が発生するほか、中には心のケアを必要とする人もいます。これら被災した失業者等が地域に住み続けられるよう、自治体は、①事業者等への雇用調整助成金等を活用した雇用維持の周知・活用の呼びかけ、②失業者等への臨時的な雇用の創出、③産業復興のスピードに合わせた正規雇用への誘導、④生活支援や福祉分野と連携した就職困難者への伴走型支援の充実などの政策に、地域や産業の復興のステージに応じて段階的に取り組んでいくことが必要です。議員の皆さんも、前1、2に示したような産業・雇用政策を念頭に置いて、地域の雇用指標や自治体の復興政策をみていくことが大切です。
(1) 中小企業基本法では、「中小企業者」とは、製造業、建設業、運輸業等では従業員数300人以下、小売業では同50人以下(同法2条1項)をいい、「小規模企業者」とは、これらのうち、製造業等では同20人以下、小売業では同5人以下を指すとされ、小売業は従業員数が製造業に比較して少ない傾向があります。
(2) 例えば、2016年10月14日付け日本経済新聞朝刊「熊本地震半年 企業、備え見直し 完全復旧大手はめど」など参照。
(3) 2021年1月13日付け毎日新聞宮城版「東日本大震災10年 グループ補助金 交付後、92事業者倒産 宮城が最多 自己負担分、重荷に」参照。
(4) このガイドラインによる効果として、裁判所による法的破産手続によらずに当事者間の合意による債務整理が行われ、以後の借入れが金融機関からできなくなる、いわゆる「ブラックリスト」への掲載が回避され、手元金(500万円程度)が残せることとなりました。
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