2021.02.25 議員活動
第10回 産業復興や雇用を支援する仕組み
3 農林水産業分野の産業復興政策の仕組み
農林水産業分野についは、次のようなプロセスで復興支援が行われます。
(1)農林水産業分野の復興政策の特性
農林水産業分野は、商工業と比較して、農地や山林、海を生産基盤としており、零細な農林漁家が多い中、自身では実施することが困難な大規模工事を必要とする場合があり、自治体が直接施工することも多くみられます。また、生産物により生育に時間がかかる品目もあり、生産が回復するまでに長い時間を要することがあるため、生産者が事業継続を断念しないような支援が必要となります。その間、販路が失われる可能性もあり、流通分野の支援も必要です。
被災地が地方の場合、農林水産業が基幹産業となっていることもあり、地域経済の面でも大きな課題となることもあります。農林水産業分野では、生産回復に莫大な費用と時間を要することが多く、国や自治体などの公的な支援のウエイトが大きいのが特徴です。
(2)生産基盤の復旧
農業分野では、田畑、果樹園等の農地と水路等の農業施設の復旧が対象となります。一般に農業土木工事を伴う災害復旧工事は、個別の農家では対応できない場合がほとんどで、自治体を通じた国庫補助によることになります。補助金の地元負担は、激甚災害に指定される大規模災害の場合、国庫補助金と交付税措置の付いた地方債の活用により、実質的に事業費の約1%程度で、これを地元市町村と農家が負担することになります。地元市町村と農家の負担割合は、自治体により様々ですが、通常は地元負担の1割程度となることが多いようです。農家の負担は、割合としては低く抑えられていますが、全体事業費が大きく、高額になることも懸念されます。また、国庫補助の制度が、災害後に国の災害査定により被害額を確定した上で補助申請をする仕組みとなっているため、着工まで時間がかかってしまいます。
水産業分野では、自治体や漁業協同組合などが所有管理する漁港施設や魚市場、種苗生産施設などの共同利用施設が被災した場合、国庫補助による災害復旧事業の対象となります。また、東日本大震災では、被災地の漁船のほぼ全部が損壊又は流出したため、漁協単位で共同で漁船を新たに取得する場合に、商工業におけるグループ補助と同様に補助が行われています。
このように、農林水産業では、ハードの生産基盤の復旧支援が中心となります。
(3)生産者の生活支援
農業分野では、田畑、果樹園への自然災害については、農業共済制度による共済金の支払がありますが、この制度は、対象作物が限定され、減収分の一部を1年に限り補填するもので、作付け後の被害が対象となります。つまり、営農再開まで1年以上かかる場合は、2年目以降は対象外となります。このため、農家では、当面の収入確保のため、短期で収穫できる作物の作付けなどを、被災を免れた農地で行うなどの対応が求められることとなります。実際に、筆者が、2018年の平成30年7月豪雨(西日本豪雨)で被災した愛媛県宇和島市吉田地区の土砂災害の状況を調査した際には、山腹のみかんの果樹園が崩れて果樹が流出し、みかんが収穫できるまでの数年間、収入の道が絶たれるということでした。この間は、被災しなかった近隣農家への作業補助などによる手間賃などでわずかながら収入確保を図るしかないとのことでした。専業農家の場合、作付けの状況に応じた支援が必要です。
また、このほか、東日本大震災の際には、水産業分野でも、本格的な操業再開までのつなぎとして、比較的短期で収穫できるワカメなどの養殖漁業を推奨するなどの取組みが行われました。
自治体は、農林水産業の零細な経営体が事業継続を断念しないよう、農協や漁協などとも連携して、個別の経営体に対するきめ細かい経営支援を行うことが求められます。
豪雨災害により崩れたみかん畑(2018年11月、宇和島市吉田地区、筆者撮影)