2021.02.25 議員活動
第10回 産業復興や雇用を支援する仕組み
関東学院大学法学部地域創生学科教授 津軽石昭彦
第10回(第19講、第20講)のポイント
1 被災地域での産業復興を迅速かつ効率的に行うためには、自治体は、地域産業の特性に応じた事業者間のグループ化、共同化をコーディネートする必要がある。
2 被災した事業者や失業者等への支援制度を有効に活用するために、自治体は、様々な制度の周知と手続の支援を行うことが重要である。
3 被災した失業者等への雇用支援は、産業復興政策や生活支援などの分野と連携して一時的雇用から恒常的雇用、非正規雇用から正規雇用の促進など段階的に行うことが有効である。
第19講 産業復興の支援
大規模災害の被災地における復興を考えたとき、いくら新たな発想で、住民が安全安心で快適に暮らせるまちを復興させようとしても、そこに定住する人がいなければ、真の復興とはいえません。
人が地域に定住するためには、住環境の整備のほかに、地域で働き、収入を得られるようにすることが大切です。そのため、被災地域の復興に当たっては、まちづくりと並行して産業の復興を進めていくことが大切です。しかも、産業の復興に当たっては、事業者が廃業や撤退を決断する前に有効な施策をスピード感をもって進めることが求められます。ここでは、被災後の産業復興政策のプロセスについて考えます。
1 産業復興政策の基本的な考え方
大規模災害が各地で頻発する中、様々な地域で多種多様な産業が被害を受ける可能性があります。国や自治体が行う産業復興政策も、地域の産業特性に応じて、きめ細かく多様な取組みが行われていますが、おおむね次のような考え方で政策が進められています。
(1)事業の廃止・撤退を回避するための迅速な対応
大規模災害が発生した地域では、様々な産業が一気にダメージを受けます。普段から担い手の不足や高齢化、事業の不振などの課題を抱えている産業分野や事業主体では、災害による被害を受けたことで、急激に事業継続への意欲や事業基盤が失われ、廃業や事業撤退に追い込まれるケースが多々みられます。このような場合に、自治体では、地域経済の維持や人口流出の防止の観点から、事業の廃止・撤退の回避に向けた対応をスピード感をもって取り組むことが求められます。
(2)従業員の雇用維持等
災害による事業の廃止・撤退を回避するために、まず取り組むべきことは、従業員の生活を維持するための対応です。大規模災害の被災地では、商工業では社屋、工場、農林水産業では農地、林地、漁業施設などの産業基盤が壊滅的な被害を受け、中長期にわたり収入を得ることが難しくなり、従業員を一時的に解雇するか又は休業とせざるをえない場合があります。そのような場合の制度として、国の雇用保険による失業給付や雇用調整助成金があります。また、自治体の事業として、職を失った被災者を直接雇用して生活支援をする場合もあります。これらの取組みの内容については、第20講で説明します。
(3)事業の早期再開
あらゆる産業が競争状態にある中で、長期の事業休止は販路を失うことにつながります。また、従業員の雇用維持等のための各種給付も期限が限られています。このような状況の中では、事業者は、仮の形でも事業が再開できるような取組みが求められます。商工業では、仮設の店舗や工場での営業再開、水産業では、生育期間が短い海藻類等の養殖などです。自治体も事業者が早期に事業の一部でも再開できるような支援に努めるとともに、二重債務問題等の事業者の負担軽減を図るなど、仮の事業再開から本格的再開へのシナリオを描けるような環境を整備することが重要です。
(4)支援のグループ化
連載第8回の被災者個人の住宅再建支援のところでも述べましたが、我が国の行政では、公平性・中立性を重視するあまり、公金を使った私有財産の形成につながる直接的支援には、非常に厳格な考え方があります。この考え方は、産業復興政策の分野にも該当し、東日本大震災発生前までは、事業者への支援は、多くの場合、低利の融資や借入金の利子補給などに限定され、農林水産業分野を除くと補助金による支援はほとんど行われてきませんでした。
しかし、東日本大震災が発生し、被災地の多くが、もともと産業基盤がぜい弱な地域であったこともあり、地元の中小事業者等への直接的な支援をしなければ、地域全体の衰退につながるおそれがありました。このため国も、被災自治体の強い要望に応じる形で、特定の事業者への施設設備の整備に対する高率補助に踏み切らざるをえないこととなりました。
この際に、地域全体の産業を支援・育成する手法の一つが「グループ化」です。すなわち、補助対象を個々の事業者ではなく、関連する事業者グループとすることにより、地域産業の中核となるグループへの支援という形をとり、事業の公益性を高めるのです。グループへの補助であれば、従来の事業者団体への支援の延長とみることも可能であり、これまでの政策との整合性をとることもできます。まさに非常時の「苦肉の策」ともいえます。この後もグループ支援の考え方は、様々な産業分野の復興支援策として活用されています。