2021.02.10 議会運営
第10回 失言と発話、話し合いと〈つなぎ・ひきだす〉力
〈つなぎ・ひきだす〉力と政策過程
政策は必ず個人の思考から生まれる(松下 1991)が、それが〈政策・制度〉として展開されるには、集団や組織の中、また社会の中の対話や議論つまり「話し合い」が伴うことになる。自治体政策は、自治体が取り組むべき課題として特定(争点化)されることで「始動」し、課題に対して事業など具体的な対策を立て(「立案」)、「決定」し、「執行」を経て「評価」される(松下 1991:150)。評価によっては、事業の方法を改善したり、終了したりということがありえる。これらのどの過程も、行政内部だけの検討ではなく、市民参加や、議会における検討や検証、「話し合い」を経て進んでいる。この点を踏まえ、都市型社会における〈政策・制度〉をめぐる「話し合い」の理念と規範として〈つなぎ・ひきだす〉力を確認してみよう。
都市型社会は利害、価値観の違う異質な人々の集合である。だが、そこで人々は〈政策・制度〉のネットワークを共有している。そのことに気づいているかいないかにかかわらず。わたしたちは多様で異質だが、自治体〈政策・制度〉の課題をめぐって、その課題つまり困難に直面したり、困難に直面している人を放っておけないと感じること、その課題に関心を持つことはできる。このことを、課題を共有する、と表現してきた。
改めて、〈つなぎ・ひきだす〉とは、話し合いを通じて課題で〈つなが〉り、理解や共感を〈ひきだす〉こと、都市型社会で課題を共有し、課題をめぐって、ばらばらの個人が「わたしたち」と表現できる関係になること、といってもいい。
ただし、いくつか補足しておきたい。理解や共感がいつも同じ意見や同じ方向に予定調和を生みだすものだとは限らない。話し合う相手と自分の意見が異なり相いれないという理解が〈ひきだ〉されることもあるだろう。また、〈つなぎ・ひきだす〉ことが連携や協力といった何かの成果を〈生みだす〉ことに直結するとも限らない。何らかの政策課題をめぐって、話し合いを通じ〈つなぎ・ひきだす〉関係となったAとBの間に、すぐ何か連携・協力が起こるとは限らない。しかし、そこでの出会いが数年後の何かの機会につながるかもしれない。あるいは、AとBとの間にではなく、Aとの〈つなぎ・ひきだす〉対話から想起されたCをBがつなぎ、AとCとの間には連携・協力が形になるということもありえる。話し合いによってできることは〈つなぎ・ひきだす〉までで、そこから先は、別の何かによる。だが、話し合いによって〈つなぎ・ひきだす〉ことは、そうした連携・協力の前提ないし基盤といえるのではないか。筆者は「協働」という用語を努めて使わないようにしているが、それは「協力して働く」ということが強調されることで、その前提になるはずの、主体それぞれのその事業をめぐる目的や手法、課題意識を知り、〈つなぎ・ひきだす〉機会がおざなりにされることもあるからだ。
議会と議員と〈つなぎ・ひきだす〉力
自治体議会は、都市型社会の、自治体〈政策・制度〉をめぐる話し合いのヒロバだ。そこが公共空間であるからこそ、そこでの発話にも、話し合いにも、理念と規範がある。ただそれは、単にポリティカル・コレクトネスや言葉狩りという禁忌として理解されるよりも、様々な人々が、「ともに社会にある同胞」として存在している都市型社会の特性への理解と、その多様な存在への想像力の問題として理解されるべきではないか。
さらに、議会は、多様な自治体〈政策・制度〉の課題をめぐって人々を〈つなぎ・ひきだす〉ヒロバでもある。また「議会は」議員によって構成される属人性の高い組織であるから、話し合いを通じて〈つなぎ・ひきだす〉力は議員にこそ内包されることが期待される。
このように整理しても、具体的なイメージはしにくいかもしれない。議会が我がまちの課題を〈争点〉として提起し、議員がその主体となる事例について、次回以降、検討してみよう。