2021.01.29 議員活動
第9回 被災地のまちづくりを支援する仕組み
まとめ(議員としての着眼点はここだ!)
第9回では、大規模災害時の復興過程のまちづくりや住民の参加を中心に学びました。ここでは、以下の3点を着眼点として指摘したいと思います。
1 既存の土地利用等でも多重防災型のまちづくりの発想を!
東日本大震災の被災地を例に、多重防災型のまちづくりを紹介しましたが、多くの場合、例に挙げたような、根本的にまちをつくり替えるような事例はまれです。通常は、既存のまちを温存しながら、数年に一度の頻度で襲来する種々の災害対策をハード面では、少しずつ、弥縫策(びほうさく)的に講じているのが現実です。より見逃されがちなのは、ソフト面の取組みです。
多重防災型のまちづくりのソフト面の取組みというと、防災訓練や自主防災組織、防災教育などが頭に浮かびますが、これらは、様々な課題を抱えながらも、徐々にではありますが、地域に浸透しています。しかし、まちづくりの根幹をなす、土地利用計画、都市計画、大規模施設配置・整備の計画などの側面については、検討の余地が多くあるように思われます。土地利用計画や都市計画の見直しの際に、地域の災害リスクを軽減させる側面からの用途規制や避難路となる街路整備などを継続的に進めていく必要があります。公共施設の整備や民間も含めた大規模建物の建築の際にも様々な防災のための工夫が可能です。また、急傾斜地崩壊危険区域や土砂災害警戒区域などの区域指定には、地価が下がることを理由に地権者の理解が得られない場合もありますが、適正な区域指定を進めていくことが多重防災型のまちづくりには必要です。
このように、平時から、自治体がまちづくりに関わる法律を使いこなしていくことも、多重防災型のまちづくりには必要となります。
2 防災の側面からも望まれる所有者不明土地問題への対応
所有者不明土地の問題については、大規模災害からの復興の過程で住宅の移転等が必要な際の問題や、派生して一般的な地域住民の福利増進のための官民の施設整備の際の障害として取り上げましたが、防災の面からも問題があります。
例えば、住宅地に隣接する山林や河川区域に隣接した低地などの土地が所有者不明のため管理が不十分な場合や、高台の民有地の擁壁、樹木などの管理が不十分な場合など、身近な場所にも、所有者や管理者が明確でないために、土砂崩れや倒壊などのリスクが存在します。現時点では、土地所有者を確定するためには、市町村が地籍調査を行うことが法的には確実ですが、所有者不明土地を増やさない取組みは地域コミュニティにおいても可能です。
人口減少時代を迎え、いざというときのために、所有者不明土地問題への対応も、今後さらに検討する必要があります。
3 復興のまちづくりの迅速化と住民参加のバランス感覚は平時の住民との関係から生まれる
復興のまちづくりにおいては、復興計画を早く決定することと、住民の意見をしっかり聴いて施策に反映させるという、一見、相反することをバランスをとりながら進めることが求められます。いずれを、どの程度優先するかは、地域や災害の状況によっても異なります。
その際、重要になってくるのは、平時からの住民と自治体間のコミュニケーションや信頼関係がどの程度構築されているかということと、復興計画の意思決定のプロセスが後から検証可能なように明確な記録と情報公開が行われていることだと思います。
そのためには、平時からの自治体と地域住民との関係や、自治体における事務手続が適正に行われる組織文化が確立していることが大切です。このような視点で、議員の皆さんにも、平時から自治体の活動をチェックすることが求められます。
(1) 「平成22年度国土交通白書」27頁掲載「コラム:釜石港湾口防波堤の損壊と減災効果」参照(https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h22/hakusho/h23/pdf/kp111000.pdf)。
(2) 「防潮堤 民意とズレ」朝日新聞2013年12月24日付け、「岐路に立つ防潮堤」朝日新聞2014年3月29日付けなど参照。
(3) 防潮堤や堤防等を通常時は生活のため通行できるよう途切れさせてあり、津波、高潮や増水時にはそれをゲート等によりふさいで暫定的に堤防の役割を果たす目的で設置された施設。
(4) 国土交通省等「第1回水門・陸閘等の効果的な管理運用検討委員会」資料「水門・陸閘等の管理運用に係る現状」参照。
(5) 国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001352323.pdf)参照。
(6) 中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」(2011年9月)9頁参照。
(7) 「『ハナミズキのみち』命の避難路完成、記念碑除幕」朝日新聞岩手版2019年5月13日付け参照。
(8) 我が国で、自治体が行政計画として復興計画を立案したのは、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災が初めてですが、その際、兵庫県、神戸市の双方とも、総合計画とは別に「復興計画」を立案しています。復興計画の立案は、一応、総合計画との整合性をとりながら策定したとされますが、具体的な事業レベルでの関係等は明確でない点もあります。例えば、「兵庫県阪神・淡路震災復興計画(平成7年7月)」の「序説」では、策定について「県の総合計画『兵庫2001年計画』のフォローアップ作業における検討内容を踏まえ、被災各市町の復興計画との調整を図りつつ、300万人を超える被災地域の住民の一日も早い生活の安定と被災地の速やかな復旧・復興をめざしてこの復興計画を策定した」とされ、一応、総合計画との調整を図った形となっていますが、具体的な事業間の関係についての記述はありません(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk41/wd33_000000043.html)。
(9) 内閣府(防災担当)「東日本大震災における被災地方公共団体の復興計画の分析調査報告書」(2012年3月)(http://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/pdf/201204_higashinihon.pdf)18~27頁参照。
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