2021.01.29 議員活動
第9回 被災地のまちづくりを支援する仕組み
2 東日本大震災の被災地における多重防災型のまちづくり
(1)堤防、防波堤、防潮堤などにすべてを頼らない
堤防や防波堤、防潮堤などの公共土木施設は、津波や土砂災害から人命や財産を守るために重要な役割を果たしています。しかし、東日本大震災では、想定外の地震や津波により、それまで絶対の信頼を置いていた公共土木施設があちこちで一瞬にして破壊されてしまいました。
つまり、災害が人知を超えたレベルで発生する現実がある以上、ハード施設の整備だけで住民の人命・財産を守りきることは事実上、困難ですし、またそのような試みは現実的ではないのです。このことは、連載第4回で紹介した、世界最深度といわれた岩手県釜石市の湾口防波堤、第7回で紹介した、岩手県宮古市田老地区のまちを二重に囲んでいた「万里の長城」とも呼ばれた防潮堤などが、如実に示しています。
しかし、これらの公共土木施設の整備が、全く無駄だったかというと、そうではありません。例えば、釜石湾口防波堤の場合、国土交通省によれば、防波堤がなかった場合と比較すると、釜石市の市街地に達した津波の高さが4~5割程度軽減され、津波の到達時間を6分程度遅らせる効果があったとされます(1)。つまり、この間に住民が避難することができれば、人命だけは守ることが可能であるということです。行政は、津波が到達する区域の住民が、6分以内に避難できる高台に一時避難場所を設けることにより、人命の被害を最小限に抑えることが可能となります。
したがって、ハードの施設の整備に当たっては、最悪の場合でも、住民が避難するために必要十分な時間を確保できる防波堤などの整備を進めるとともに、その時間内に住民がたどり着ける安全な避難場所を確保することが大切です。
(2)堤防、防波堤、防潮堤などの整備の考え方
とはいっても、実際に住民が避難するために必要十分な時間を確保できるような堤防、防波堤、防潮堤などのハードの施設を整備するために、具体的な高さや整備場所、整備方法などをどのように決めるかが自治体にとっては、大きな問題になります。コストや工事期間、施設の管理方法などについて、地元住民に説明し、理解してもらうことが必要です。住民の中には、津波等の被害を受けながらも、水産や港湾運輸などの海に関係した仕事に従事している人や、海岸の眺望などの景観のよいところでは観光をなりわいにしている人が数多くいます。また、長く海辺での暮らしをしていて、海への特別な感情を有する人も数多くいます。これらの人々が理解した上で施設が整備されることが必要です。
このため、岩手県では、地区ごとの海岸の防潮堤の高さ等を決めるに当たっては、沿岸での一定の安全を確保するために国の基準をもとに海岸の場所ごとに、過去の記録から発生頻度が数十年から百数十年に一度の、発生頻度が比較的高い津波を主なターゲットとして、専門家の意見をもとに設定し、地元との調整を行い、最終的に決定しています。その上で、発生頻度の低い最大級の津波に対しては、ソフトの施策や道路、河川、市街地のかさ上げなどの他の施設整備も組み合わせて、津波の到達時間をできるだけ遅くする耐力を備えるとしています。なお、防潮堤などの高さや整備方法については、東日本大震災の場合、発災後半年から1年で決められていますが、時間の経過とともに、住民の間には、高すぎる防潮堤などに疑問の声も一部あったとされ(2)、決定プロセスへの住民参加のあり方には、検討の余地があったともいえます。
防潮堤などについては、設置後の管理も重要です。特に、防潮堤が整備されても、防潮堤の内側と外側をつなぐ水門や陸閘(りっこう、りくこう)(3)が災害時に適切に開閉されることが求められます。法律上は、これらの水門や陸閘は、河川・海岸の管理者(国や自治体)が管理主体となっていますが、実際の現場では、地元の市町村や消防団などに日常的な管理が委託されているのが通常です。東日本大震災では、海岸の防潮堤の水門や陸閘の閉鎖業務を行っていた消防団員が逃げ遅れて犠牲になった事例が多くみられました。その中には、明確な委託契約が存在しなかったり、法律上も、津波の際の現場での危険回避のための海岸管理者の責任が明確でなかったなどの問題もあり(4)、その後、水防法の改正につながりました。また、震災後、主要な水門・陸閘では、津波等の際の閉鎖作業の危険回避のため、遠隔操作による自動開閉システムが導入されていますが、全体の中ではごく一部であり、整備の充実と適正な管理が望まれます。