地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2021.01.29 政策研究

第10回 地方性(その1)

LINEで送る

府県制=府県会+府県税

  府県制(1890年=明治23年、法律35号)は、自治体としての府県を定める法律である、と考えられている。府県知事以下の地方官は、上記のとおり天皇の官制大権のもとにある国の官僚・組織なので、法律ではなく勅令の地方官官制によって定められている。府県の事務を執行するのは、地方官である知事以下である。府県制は、自治体としての性格を特に明文には定めていない。総則(廃置分合・区域)、府県会、府県参事会、会計が定められているだけである。つまり、地方官としての知事以下府県庁が仕事をする際に、特定の府県区域における府県税への同意を得るための府県会・府県参事会という仕組みを定めたものである。
  府県制には、「自治」の用語はない。また、「地方」の用語は1か所しかない。それは、府県税が従前の「地方税規則」(1878年制定)の規定を引き継ぐという規定である(57条)。その意味では、府県は国と一体不可分の地方とはされていないようにも見え、自治体のようである。しかし、上記条文は、府県において国と地方を連結している。つまり、府県税は地方税である。府県税などで収入を得るので、府県は「地方団体」である。「地方団体」が地方税で調達した資金を充当する仕事は、国の官僚である知事の仕事である。つまり、地方税によって国の事務を賄う。その意味で、府県制でも、国と地方が一体不可分で結合している。
  こうして、地方官と地方税を府県会で結合する地方制度が成立する。江戸体制の年貢は、村や百姓の同意を得る必要はなかったので、府県会で府県税・会計(≒予算)を決定することは、「代表なければ課税なし」の近代的な立憲政体を象徴する。とはいえ、地方税への同意は、国から付与される法律命令の施行や警察事務などの仕事を賄うことが基本であり、府県が自治体として、自分たち住民のための仕事を行うために費用分担を、自分たち住民が負うことを意味するものではない。

小括

  こうして、「地方」とは、あくまで、国から見て、一定の区画に対して割り付けた用語なのである。その意味で、常に「国家地方」である。内務省の担当部局が「地方局」であったのも、同じである。地方とは、地域社会の住民や共同体から出発して、自治的に運営することに付与される用語ではない。地方制度も、あくまで国が各地の民衆に負担分任を要求するための区画線引きの制度である。今日まで「地方制度調査会」などの用語が用いられているのは、「国家地方」の側面が持続しているからである。
  なお、明治国家以来戦後に至っても、国が民衆に要求するものは、主として税負担(「徴税」)であった。戦前には、これに肉体負担(「徴兵」)が加わっていた。大日本帝国憲法での臣民の義務は、兵役と納税であった。また、義務教育(「徴学」)も、大人になってからの就労自立=労働(「徴傭」又は「徴役」)を要求する前提である。戦後体制でも、国民の三大義務は、納税・教育・勤労である。では、今日、地方制度として、国は各地の民衆に何を要求し始めているかは、興味深いテーマであろう。依然として、納税・教育・勤労を求めているが、それに加えて、おそらく、デジタル・情報社会を前提にすれば、民衆から、個人的・顕名的及び集団的・大量的・匿名的に、個人情報を収集することであろう(「徴報」)。府県制において、府県会の同意を得て、国に必要な府県税を徴税するように、21世紀の地方制度においては、自治体の同意を得て、国に必要な個人情報を国が強制的に入手するデジタル化なのである。デジタルXの「X」は個人情報徴収である。

(1) https://www.jacar.go.jp/glossary/term3/0010-0010-0050.html

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る