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2021.01.15 ICT活用・DX

AIは未来構想と政策提言に活用できるか

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AIにできること/できないこと

 こうした試みは「AIに基づく政策」、あるいは「AIBP(AI-based Policy)」と呼べるだろう。なお未開拓の領域であり、私たちの研究もなお試行錯誤の段階だが、それは、
 ① 無数の未来を網羅的に列挙することを通じ、現状や未来についての人間の「認知のゆがみ」を是正し、
 ② 多くの要因間の「複雑」な関係性や影響を分析でき、
 ③ 「不確実性」や曖昧さを組み入れた予測をなしうる
といった長所を持っている。そして、上記のようにまだまだ精度などの課題は多いのだが、複数の未来シナリオとともに、そこに至るために重要となる政策が明らかになるので、全体としてある意味で「フォアキャスティング(未来予測)」と「バックキャスティング(未来逆算)」の両者を組み合わせた方法──いわば“フォア・バック・キャスティング”──と呼べるのではないかと考えている。
 一方、以上のように記すと、人間ではなくAIが「未来」の予測をしているように聞こえるかもしれないが、それは正しくない。すなわち、シミュレーションの土台となる「モデル」の作成を行うのも、シミュレーション結果を踏まえた意味の解釈、評価軸の選定、価値判断等を行うのも人間であり、AIはあくまで補助的な「ツール」にすぎない。
 私は以上を“サンドイッチ型”の構造と呼んでおり、つまりモデル作成という始めの部分と、シミュレーション結果の解釈という終わりの部分の両者を、人間が「はさみ込む」ような形で行っており、AIが行うのは中間のシミュレーション(計算)の部分であって、いわばAIは“人間の手のひらの上で”作業をしているような構造になっている。
 ここで、「そもそもAIに何ができ、何ができないか」という点に関する若干の整理が必要かもしれない。これについては、マクリーンというアメリカの神経学者が提案した「脳」の構造に関する議論が参考になる。
 すなわち脳は基本的に三つの部位から成り立っており、最も土台にあるのは脳幹と呼ばれる部分で、これは本能や生存に関わっている。2番目は大脳辺縁系と呼ばれる部分で、これは感情や社会性に関わり、哺乳類以上で特に発達している。そして3番目は新皮質ないし前頭葉と呼ばれる部分で、これは他でもなく「知」、つまり思考や論理や認識に関わる部分で、人間において大きく発達した部分である(図参照)。

20210115特集図

 端的にいえば、AIは以上のような脳の三つの機能の中で、最後の「知」の部分だけを切り離して機械にしたものである。したがって純粋に論理に関する面では人間を凌駕(りょうが)しうる半面、その土台にある価値判断といった機能は持ち合わせておらず、要するにAIはそれだけで「自立」することはできない。
 まとめると、先述のようにAIは、多数の要因間の「複雑な関係性」、そして「不確実性」を含むシミュレーションを行うことができるという点において政策立案の有効なツールとして活用でき、それは今後も着実に発展させていくべきである。しかし同時に、ここで述べてきたようにAIが行う計算のベースとなる基本的なモデルづくりや、結果の意味解釈、そして未来社会の「構想」を行うのはあくまで人間である。
 要するに、AIは未来を予想したり構想したりする“道具”として積極的に活用できるが、予想の土台となるモデルや構想そのものをつくるのは人間である
 逆にいえば、AIの登場によって、あるいはAIとの役割分担ないし“協働”において、政策立案あるいは未来構想の新たなスタイルが開かれるとともに、人間による真の意味での未来の「構想力」が問われる時代を迎えているのである。


(1) 「2050年、より多くの人々が幸せに暮らせるように──AIが描き出す2万通りの未来シナリオから、持続可能な社会の形を模索する:社会イノベーション:日立(social-innovation.hitachi)」(https://social-innovation.hitachi/ja-jp/case_studies/hitachi_kyodai_labo/)
(2) 長野県「AI(人工知能)を活用した、長野県の持続可能な未来に向けた政策研究について」(https://www.pref.nagano.lg.jp/kikaku/kensei/ai/ai.html)
(3) 真庭市「AIを活用した真庭の将来モデルを検証しました」(https://www.city.maniwa.lg.jp/soshiki/3/1068.html)
(4) 兵庫県「AIを活用した未来予測─2050年の兵庫の研究─」(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk07/visionresearch.html)

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