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2020.12.25 議会改革

第15回 住民と対話する

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(1) 民主主義をめぐっては、本来的には直接民主主義が基本・理想であり間接民主主義はその代替措置と捉えるのか、それとも、間接民主主義が基本と捉えるのかという議論があり、日本では前者の立場に立つ議論が少なくないが、ヨーロッパでは後者の立場がとられてきた。国のレベルでは、後者の考え方に立つのが妥当と思われるが、自治体、とりわけ基礎自治体についてはそれとは別の議論が可能である。地方自治法でも、多くの直接民主制的な仕組みが規定されているほか、町村では、議会を置かずに、町村総会を設けることも認められている。
(2) 例えば、全国町村議会議長会の第65回町村議会実態調査(令和元年7月1日現在、以下「65回町村議会実態調査」という)によれば、町村議会(926団体)では、町村長以外に会議録を配布していない議会が380団体あり、配布する場合の配布先では公共施設が345団体、議員が306団体などとなっており、また、会議録をホームページ上で公開していないところも312団体ある。
(3) 全国市議会議長会の市議会の活動に関する実態調査結果(平成30年中、以下「平成30年市議会実態調査」という)によれば、市議会(805団体)では、常任委員会の傍聴について原則公開しているが50.2%、委員長・委員会の許可により公開しているが49.0%、その他の条件により公開しているが0.9%であり、それが特別委員会の傍聴では49.3%、48.3%、1.8%、議会運営委員会では44.8%、51.0%、2.3%となっている。また、65回町村議会実態調査によれば、委員会の記録について全文記録が244団体、要点記録が654団体、録音のみが16団体であり、これを公開しているのは62団体にとどまる。
(4) 総務省の「情報公開条例等の制定・運用状況に関する調査」(2018年3月)によれば、2017年10月1日時点で、議会が当該自治体の情報公開条例の実施機関となっているのが都道府県で35、指定都市で19となっており、議会として独自の情報公開条例を制定しているのが都道府県18、指定都市1、市町村59となっている。
(5) イニシアティブについては、諸外国では、直接に住民投票に付す制度(直接立法)としていることも多く、住民からの提案を住民投票に付す制度と捉える見方も有力である。その場合には、日本の自治体における条例の制定改廃請求はイニシアティブには該当せず、どちらかといえば住民による条例案の議会への提出に近いことになる。イニシアティブとレファレンダムは、ともに直接民主制の方法・仕組みで、イニシアティブは法定数の有権者に法律、条例、憲法修正の提案を認めるものであり、直接イニシアティブはその提案を直接国民や住民の投票に付すもの、間接イニシアティブは提案が議会で審議され議会が可決すれば成立し、可決されなかった場合には有権者の投票に付すものである。イニシアティブの意義は、議会が拒んでいる法案等を有権者が直接立法することで、議会の意思が住民意思に応答的になるよう議会活動を補完することにあるといわれる。他方、レファレンダムは、憲法、法律、条例等について有権者の投票で拒否したり承認したりすることを認めるもので、開始の方法により義務的レファレンダムと任意的レファレンダム、結果の法的拘束力により諮問型レファレンダム、決定型レファレンダム、拒否型レファレンダム(議会制定の法律等に異議が提起された場合に拒否するかどうか投票)などがある。なお、任意的レファレンダムの場合にはその発案権者(執行部か議会か一定数の議員か一定数の有権者か)によってその意義や機能が異なりうる。
(6) 1948年の地方自治法改正において議員修正により除外されることとなったもので、その背景には1947年前後に電気・ガス税等の減税を求める条例の制定改廃請求が多く出されたことがあった。これに対し、民主党政権時代に、除外当時は戦後間もない時期で国民生活も相当混乱し経済的にも苦しい状況にあったが、当時と比べれば国民生活も安定し、住民の自治意識も変化していると考えられ、また、地方税の賦課徴収等に関することは住民にとって重大な関心事項であり、住民が自ら発議できることは住民の自治意識を高めるものであるとし、住民自治の充実・強化策として、地方税等に関する条例も制定改廃請求の対象とすることが検討されたが、第30次地方制度調査会では結論が先送りされることになった。
(7) 憲法16条は「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」と規定しているが、請願権の性格については、国務請求権(受益権)と解するだけでなく、国家意思や国家活動への参加といった参政権的な性格をもち、また、請願権の行使により不利益を受けないという点では自由権的な側面も有しているといえる。特に、参政権的側面では、選挙権を認められていない未成年者、外国人、法人、権利能力なき社団などにも認められているものであることに留意する必要がある。
(8) 東京高判平成14年10月31日判時1810号52頁は、請願は憲法上認められた権利であり、請願法は、同法に適合する請願は官公署においてこれを受理しなければならないと定めているのであるから、請願を受けた官公署が確定的にその受理自体を拒むことは、憲法及び請願法により認められた請願権を侵害するものとして、行政処分性を有するとする。また、その原審の東京地判平成14年5月21日判時1791号53頁は、憲法16条を受けた請願法2条は、請願権の実質的保障の見地から、請願を広く認めるとともに、請願として受理されるために必要な最低限の方式を明らかにする趣旨であり、同条の「氏名」は、他人と識別可能な程度の名称が付されている限り通称でもよく、官公署は通称での受理を求める請願者に対しては、当該通称の記載によって請願者を特定しうるか否かを審査し、その結果に応じた補正を促す義務を負うとの判断を示した。もっとも、上記控訴審判決は、通称のみの記載によって要件を満たしていると認めうる場合があるとしても、そのように認められうる通称は少なくとも戸籍上の氏名と同程度にその使用者を特定・識別するものとして社会的に定着しているものであることを要するとの判断を示している。他方、東京地判昭和32年1月31日行裁例集8巻1号133頁は、請願は、これを受理又は採用した官公署に対し特別の法律上の拘束を課するものではなく、請願者の権利義務その他の法律関係に何らの影響を及ぼすものでもないから、その採否の決定を行政処分と解することはできず、請願者は採決決議の効力を争う法律上の利益を有しないとする。
(9) 神戸地判平成5年3月17日判時1489号137頁は、「陳情とは、国や地方公共団体の機関に対し、一定の事項について、その実情を訴え、適当な措置を要望する事実上の行為を言うところ、住民の要望を地方議会に反映させる手段であるという点では、請願権とともに重要な意義を有するものである」とする一方、「陳情は事実上の行為であり、両者を全く同一に論じることはできず、また、陳情を受けた当局が、陳情内容に拘束されたり、なんらかの処理をすべき法的義務を課せられたりする性質のものではない」とする。
(10) 一部採択は、請願事項の一部に賛成しうる項目があった場合にその部分を指定して採択すること、趣旨採択は、請願の趣旨はよくても、実現性の面などでその要望に沿い難いところがある場合に趣旨の採択として議会の意思を示すものである。
(11) 北海道栗山町の議会基本条例では、「議会は、請願及び陳情を町民による政策提案と位置づけるとともに、その審議においては、これら提案者の意見を聴く機会を設けなければならない」と定めており、これが一つのモデルともなったといえる。
(12) 議会改革度調査2016では全自治体の75.3%に当たる1,347の議会が回答。具体的には、「請願・陳情者の発言機会があり、会議録に残している議会」は都道府県議会で13%、市議会で28%、町議会で14%、「請願・陳情者の発言機会があり、会議録に残していない議会」は都道府県議会で9%、市議会で14%、町議会で5%となっている。
(13) 政策提言については、議会としての意思を明確にし、住民にアピールするためにも、決議の形で議決することなども考えられる。
(14) イギリスの電子請願システムは、議会と政府の共同システムとして設けられているもので、インターネットを通じてなされた請願について、署名が行われ、獲得署名数により、1万を超えたものについては政府からの回答、10万を超えたものについては議会(ウェストミンスターホール)での討議が行われるものとされている。
(15) 平成30年市議会実態調査及び65回町村議会実態調査によれば、議会モニターなどを導入しているのは、市議会で32団体・3.9%、町村議会で73団体・7.9%となっている。
(16) なお、大阪市で2015年と2020年に行われた特別区設置(大阪都構想)をめぐる住民投票は、大都市地域における特別区の設置に関する法律に基づくものであり、拘束型の住民投票であった。
(17) 民主党政権の時代には、住民自治の強化策として、大規模な公の施設の設置を対象に拘束力をもった住民投票の法制化が検討されたが、自治体側の反対も強く、先送りされた。
(18) 例えば、1997年の名護市のヘリ基地建設をめぐる住民投票では、長が住民投票の結果に従わず受け入れ表明したことが訴訟に持ち込まれ、那覇地判平成12年5月9日判時1746号122頁は、条例の尊重義務規定に依拠して過半数の意思に従うべき法的義務があるとまで解することはできず、住民投票の結果を参考とするよう市長に要請しているにすぎないとの判断を示している。

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