株式会社国際社会経済研究所調査研究部主幹研究員 遊間和子
1 新型コロナウイルス感染拡大とDX
健康・医療・介護分野のICT活用は、様々な制度や規制等の壁に阻まれ、情報化のスピードが上がらない分野の一つでした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が、この分野においてこそ、AIやIoTといった最先端技術を含めたICT活用を積極的に進める必要があることを顕在化させる大きなきっかけとなっています。
日本では、他国に比べれば、感染者数も少なく、死亡率も低い状態にあります。国や自治体の対応により、大きな混乱を引き起こすことなく事態を抑えることができているともいえますが、他国のICTを活用したスマートな施策に比べると「対応が遅い」といった印象は強く、国・自治体への大きな不満になりました。
日本では、世界のトップクラスとはいえないまでも、社会のデジタル化を推進してきましたが、新型コロナウイルスの感染者数の把握や関連する給付手続などではアナログな対応に終始することになりました。
これは、デジタル化の要であるマイナンバーが「税と社会保障」に利用場面が限定されていることで、必要な政策を検討・実施するための情報を国や自治体が適切に把握できないことが要因の一つとして挙げられると思います。さらに、現在のマイナンバー制度では、疾病などセンシティブな情報を扱う医療・介護等の分野において、マイナンバーを直接利用できない法的枠組みとなっています。With/Afterコロナの時代だからこそ、個人情報保護と活用のバランスをとりながら、さらに一段高いICT活用により社会全体を変革していく「デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)」(以下「DX」といいます)へと、つなげていくべき時が来ているといえるでしょう。
2 デジタル化でヘルスケアを変革するデンマーク
DXを着実に進めている国の一つに、デンマークがあります。社会福祉が充実した北欧の国であるデンマークは、公共サービスにおける電子化を強力に推進しており、国連の「電子政府ランキング」(1)では、加盟する193か国の中でランキング1位という情報化大国でもあります。ちなみに、日本は14位ですので、デンマークの先進性がお分かりいただけると思います。デンマークのデジタル化を世界トップへと引き上げた推進役が「デジタル化庁」(2)です。2011年に設立され、中央政府から地域Region及び市町村Kommuneに至るすべての行政機関だけでなく、行政機関が所有する病院、学校、大学などもデジタル化の対象となっています。
デンマークのデジタル化の要となるのが、個人番号CPRです。1968年に導入され、デンマーク国民に対しては出生と同時に付番されます。税や社会保障、病院の診察など公共サービスだけでなく、銀行口座の開設など民間サービスにも利用されており、あらゆる場面で個人番号CPRが活用されています。
ヘルスケア分野では、個人番号CPRが記載された医療保障カードSundhedskortが各自治体から発行され、医療機関を受診する場合は、このカードを提示します。健康・医療・介護のデータが、個人番号CPRで連携することで、高品質で効率的なヘルスケアを実現しています。