2020.12.10 議員活動
第3回 情報共有・市民参加と議会
元・大和大学政治経済学部教授 田中富雄
1 情報共有・市民参加の進展といまだ残る情報共有・市民参加の課題
自治体の政策過程においては、その過程にふさわしい市民参加の手法が1970年前後から行政により導入されて久しい。武蔵野市における長期計画の取組みは、その先駆として広く知られている。一方、議会における市民参加の導入は、議会基本条例の嚆矢(こうし)とされる2006年の北海道栗山町議会基本条例制定により広がりを見せてきた(なお、栗山町議会においては議会基本条例制定前より改革に取り組んでいる)。
「情報なくして参加なし」ともいわれるように、適切な情報なくして適切な参加は行いえない。適切な情報がない中での参加は謬(びゅう)(=間違い)を生む可能性が大きくなる。今日、表立って情報共有・市民参加に異論を唱える人は少なくなっている。しかしながら今日でも、市民と議員・議会との間には市民と行政との間における課題と同じように情報共有・市民参加の課題が存在する。
2 情報共有や市民参加の課題と時間
これまで多くの自治体において情報共有や市民参加が導入されてきた。導入されてきたのは、より良い政策過程を形成するという理由からであるが、その中には、自治体の謬による課題を解消したり予防するという意味もある。けれども、このような制度の運用自体においても、アクターの制度に対する理解とアクター間での調整そして合意が必要となるために、その過程において謬が発生しうることになる(田中 2017:35)。自治体の憲法といわれる自治基本条例や総合計画の認知率も残念ながら高いとはいえない。これは、情報を提供する側の方策が足りていないのかもしれない。財団法人地方自治研究機構によれば、参加について「参加者の少数特定化」が課題として存在する(財団法人地方自治研究機構 2007:23)。
また、パブリックコメント手続を実施しても意見が出ないことを「良し」とするパブリックコメント手続実施者も見受けられる。パブリックコメント手続の受託業者も、それで「良し」とする場合がある。広報紙やインターネットでパブリックコメント手続が行われることを周知している自治体が多かろうが、パブリックコメント手続が行われていることやパブリックコメント手続の案件・内容を認知している市民は限られている。
パブリックコメント手続を実施しても意見が出ないことを「良し」とする背景・心理としては、決定が求められる月日までの日程が挙げられる。具体的には、パブリックコメント手続を実施した後の案修正の日程、さらには場合によって再度のパブリックコメント手続を実施する日程の時間がないことが挙げられる。そして、このような課題を解決するためには、パブリックコメント手続を実施する前段階での日程調整が重要になる。場合によっては、計画策定の期間を早めたり延長することも考えられる。単年度で計画策定をする場合は、前年度に債務負担行為で予算を確保しておき、契約準備だけでも前年度に処理しておくことが望まれる。
なお、国も自治体政府に計画策定や事業実施を依頼する場合には、自治体の市民がその案件について十分に検討できる期間を設ける必要がある。地方版の人口ビジョンや総合戦略の策定に際しては、その策定依頼が急であったため、当初(2014年頃)混乱が生じた自治体もあった。