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2020.11.25 議会改革

第14回 長とどう向き合うか

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(1) 副市町村長の選任をめぐり、長と議会が対立し、長が専決処分により選任した事例なども生じたことから、2012年の地方自治法改正により、副知事・副市町村長の選任の同意については、法律上、専決処分の対象とすることは認められないこととなった。
(2) 棄却の裁定の場合には議決等は適法となり、取消しの裁定の場合には議決ははじめからなかった状態に戻ることになる。
(3) 白井市北総鉄道補助金専決処分事件・東京高判平成25年8月29日判時2206号76頁。本訴訟は、白井市長が北総鉄道に対する運賃値下げのための補助金を支出する旨の補正予算案を専決し、公金を支出したことが違法であるとして、市長個人に対して損害賠償の請求をすることを、北総鉄道に対して不当利得返還の請求をすることを市長に求めた住民訴訟であり、同判決は、市長は議事の混乱により審議未了のまま会期が満了することを承知の上であえて本件補正予算案を提出し、実際に議事が混乱したことを利用して専決処分をしたものと認められること、本件補正予算案については市議会の内部的事情により市長が議会の議決を得ることが社会通念上不可能であったとか、これに準ずる程度に困難であったということはできないことから、本件専決処分は地方自治法179条1項の要件に該当しない違法なものであるとの判断を示し、市長に対する請求について認容。他方、相手方である北総鉄道の利益に配慮すれば本件贈与契約が私法上無効とまではいえないから、不当利得返還義務があるとはいえないとして、北総鉄道に関する請求は棄却した。なお、当該判決確定後、元市長からの損害賠償金の支払がなかったことから、白井市が損害賠償を求めて訴訟を提起し、千葉地判平成30年8月23日D1-Law.com判例体系判例ID28264053は2,363万円余と遅延割増金の支払を元市長に命じた。
(4) それでも、長が否決された案件について専決処分を行う例がたまに見られる。この点、銚子市未払調整手当等支払請求事件・千葉地判平成19年3月9日判例地方自治304号15頁は、議会が条例案を否決したにもかかわらず、長が急施を要し議会を招集する暇がないとして専決処分によりほぼ同一内容の条例(調整手当を廃止する職員等の給与条例改正条例)を制定した事案につき、「議会を招集する暇がない」(2006年改正前条文)かどうかの認定は、覊束(きそく)裁量に属し、当該事件が急施を要し、議会を招集してその議決を経て執行すればその時期を失するなどその招集に暇がないことについての認定には客観性を要するとした上で、市議会が条例改正案を否決しその意思が明確に示された案件について、市長が、その否決当時に予測困難であったその後の事情の変化が格別ないにもかかわらず、市議会の意思を尊重せず、条例改正案とほぼ同一の内容を専決処分の対象としたと認めるのが相当であり、本件専決処分は時間的余裕がないためにやむなく行われたものではなく、市議会の議決を免れることを意図してされたものと評価されても致し方ないとし、本件専決処分は「議会を招集する暇がないと認めるとき」の要件に該当しないとして、それにより制定された改正条例を無効とした(確定)。
なお、2012年には、当時ショッピングセンターの誘致、行政改革などをめぐり市長と議会が激しく対立していた東久留米市で、一般会計当初予算が4度にわたり否決され、5度目の提出でも議決がされなかったとして、市長が12月28日に専決処分を行うといった事態も生じた。市長の説明によれば、専決処分は特定の場合にのみ許容される例外的制度としつつも、市政運営への影響を考慮し行ったとしている。なお、当該専決処分は、翌年の議会で不承認とされた。
(5) 東京都が応訴した訴訟事件関係の和解のすべてを知事の専決処分とした議会の議決が違法であるとして、専決処分により和解を成立させた元知事に対し損害賠償を求めた住民訴訟で、東京高判平成13年8月27日判時1764号56頁は、どのような訴訟上の和解が地方自治法180条1項にいう軽易な事項に該当するか否かの判断は、第一次的には議会の判断に委ねられているというべきであるが、およそ訴訟上の和解のすべてを無制限に知事の専決処分とすることは法の許容するところではなく、このような議決は、議会に委ねられた裁量権の範囲を逸脱するものとして違法・無効とした。しかし、その一方で、議会の議決に基づく執行行為でさえあれば長には常に損害賠償の責任が生じないと解するのは相当でなく、少なくとも議会の議決が一義的明白に違法であるような場合には長にも損害賠償の責任が生ずるとしつつも、本件議決が一義的明白に違法であるということは困難であるとして、元知事の損害賠償責任は認めなかった。
(6) この通知の規定は、1950年の地方自治法改正により追加されたものであり、その趣旨は、不信任議決の有無をめぐりいたずらに混乱が生じるのを避けるものであったとされる。
(7) 最判昭和31年10月23日民集10巻10号1312頁は、違法な村長不信任議決に対して抗告訴訟の提起ができないものでもなく、また、この場合に(旧)行政事件訴訟特例法10条2項により執行停止が許されないものとはいえないとの判断を示す一方、仙台高判昭和23年10月25日民集3巻2号48頁をはじめ裁判所は、解散は長による行政処分との前提に立っている。
(8) その点で話題となったのが、2002年に長野県の田中康夫知事が、県政の停滞と財政破綻を理由に県議会で不信任議決が大差で可決されたのに対し、県議会を解散せずに失職し、その後の知事選に出馬し、圧勝した例である。結局、知事と県議会の関係については、田中氏が任期満了による次の知事選で落選するまで、改善することはなかった。
(9) 疑惑を受け、告発された長が開き直って解散を通知するというのは前代未聞のことであり、また、解散通知後の議会の活動の有効性や議員の地位の安定性の確保のためとはいえ、当然に無効な解散処分を違法な行為をした区長が取り消すという決着方法も異例であり、さらに、新型コロナウイルス感染症対策として他の自治体と比較すれば破格ともいえる区民への一律12万円支給の問題も絡むなど、いろいろと自治のあり方を考えさせられるケースであったともいえる。
(10) 青森地判昭和33年2月27日行裁例集9巻2号320頁は、不信任議決について「町長に対し直接むけられ、かつ、客観的に不信任の意思を表現している議決をいうものであると解すべく、しかも、……議員数の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意があつたものでなければならないのである。従つて、町長辞職勧告案の議決は、不信任の議決に包含されるということができるけれども、それ以外の例えば予算案に対する削除減額の議決のごときは、たとえ、その意義が政治的に重大であつて、町長に対する不信任の意思を内包しているとしても、不信任の議決に当らないというべきである」との判断を示している。また、前述の東京地決令和2年8月7日は、「長の不信任の議決」について、長の不信任案の議決又は信任案の否決に限られないとしながらも、議決やこれに係る議案の内容に照らし、客観的に見て、長に対する不信任の意思を含むものであることが明確であって、かつ、その不信任の意思が当該議決の要素を成すものと認められるものであることを要するとの判断を示している。
(11) 地方自治法178条の不信任の議決について、和歌山地判昭和27年3月31日行裁例集3巻2号351頁は「必ずしも不信任案の可決のみならず、信任案の否決、その長に対する辞職勧告の議決は勿論、客観的に不信任の意思を表明すると認められる議決、例えば、地方公共団体の長が、その住民に公約し、自己にとつて政治的生命とも言い得る根本的施政方針に基く事項を議案として提出したとき、議会の法定多数が別段正当な事由がないのに、専らその長を苦境に陥れて退職させる意図のもとに該議案を否決する議決をも含む」とし、また、松江地判昭和28年3月25日行裁例集4巻3号578頁は「議会が長に対する不信任案を正式に可決した場合のみに限らず、議会が同条第三項所定の四分の三以上の多数決を以て、明らかに長に対する不信任の意味を以て、長提案の重要議案を否決したり或はこれを審議未了として、故意に長を苦境に陥れ、その結果長と議会との対立が破局的となり、そのいずれを正当とするかの判断を一般住民の意思に委ねるのが客観的に妥当と思われる場合をも指す」とする。なお、前者の判決で、訴訟の提起の承認を求める議案を否決したことにつき長が議案の説明にあたり否決は不信任を意味するものと述べ、否決された後は不信任とみなされたので退場する旨を述べたという事例で否決は不信任議決ということはできないとして解散を違法とし取り消したのに対し、後者では、長を窮地に陥れる目的で法定多数をもって可決されたものであること、議長は長に対しその不信任を内容とする審議未了の議決である旨を通知したこと、審議未了の結果緊急を要する重大な村政の執行が妨害せられたことなどを総合し、長と議会の対立は破局的段階に達し、議会の解散により一般住民の意思を問うことが妥当な情勢であったとして、本件審議未了の議決を実質的には不信任の議決に当たるとした。
(12) 先に触れた阿久根市の例であり、市長再選後の議会無視、法無視、裁判所無視の市長の行為に対し、議会は通年議会を可能とする条例を可決したものの市長が公布しなかったことも含め、議会は有効な対応をすることはできず、結局、反市長派市民団体による解職請求に基づく住民投票でかろうじて賛成が上回り、失職した元市長の出直し選挙での落選によってようやく混乱にピリオドが打たれることとなった。もっとも、元市長はその後も市長選に立候補し続け落選する一方、市議選にも立候補して当選し、市議会議員を続けながら勢力の拡大に取り組んでいるといわれる。
(13) それがその自治体の民主主義のレベルだといってしまえば、それまでのところもあるが、中には、制度のあり方の問題に立ち戻って考えていくべきものもあるように思われる。いろいろと述べてきたように、現行のシステムは、よく練られたものかといえば決してそうではないところがあり、あまり固定的に捉えていくべきではない。他方で、運用によって改善を工夫していく余地も少なくなく、その努力を怠るべきではないだろう。

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