2020.11.25 議会改革
第14回 長とどう向き合うか
【コラム:瑕疵ある専決処分と議会の追認】
専決処分に向けられる目が厳しくなるにつれ、専決処分が地方自治法179条1項所定の要件を満たさず違法とされる事例も見られるようになっているが、要件を欠き瑕疵ある専決処分について、後に議会が承認した場合に当該瑕疵は治癒されるのかという問題がある。
この点については、次のような、議会の承認により瑕疵は治癒されるとした裁判例がある。
例えば、市税条例改正条例の専決処分についての議会の承認をめぐり、津地判昭和54年2月22日行裁例集31巻9号1829頁とこれを認容した名古屋高判昭和55年9月16日行裁例集31巻9号1825頁は、179条1項の「長において議会を招集する暇がないと認めるとき」とは当該事件が急を要し、議会を招集してその議決を経て執行するときは時期を失する場合をいうとした上で、改正市条例は当該年度において賦課徴収すべき租税に関する規定を既に当該年度に入っている時期に改正しようとするものであるから、できる限り早急にこれを行うべきことは当然であるが、そのことから直ちに改正市条例について議会の議決を経てその執行をすることが時期を失することとなるものでなく、本件専決処分承認までの経緯に照らすなどしても当該要件を具備したものとは認められないと判示。他方、条例の制定は本来議会の権限であるところ、長の専決処分に対し議会の承認がなされた場合には結局議会の議決のあったのと同視してよいのであるから、専決処分が要件を欠いてなされた場合であっても後に議会の承認があれば瑕疵は治癒されるとして、専決処分の違法を認めなかった。
また、村長が①一般会計予算、②副村長、監査委員の選任に関する人事案件、③図書館建設請負契約の締結に関する議決、④道路工事請負契約に関する議決について専決処分を行い、その支出の違法性が争われた住民訴訟で、東京高判平成25年5月30日判例地方自治385号11頁は、原判決において、専決処分が議会の議決を潜脱する目的をもって行われたものといわざるをえないから違法であるとされた②〜④の専決処分について、村議会が、原判決後に、同判決により専決処分の効力に疑義が生じたとして、改めて専決処分②について当該案件に同意する議決をし、専決処分③と④について当該案件を追認する議決をしたことによって、いずれも、その瑕疵が治癒されたものというべきであり、専決処分②〜④が違法ということはできないとした(最決平成26年6月13日の棄却・上告不受理により確定)。
このほか、町長が専決処分により町を被告とする訴訟につき和解を成立させて和解金を支払ったことが違法であるとして、町長個人に損害賠償の請求をすることを町長に求めた住民訴訟について、東京高判平成25年6月12日判例地方自治385号19頁は、本件補正予算のうち賠償金に係る部分の専決処分及び本件和解の専決処分について、議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであったとまでいうことはできないとしつつ、町議会が179条3項に基づいて本件和解の専決処分及び和解金に係る補正予算を承認したことにより、本件各専決処分が同条1項の要件を満たしていなかったとしてもその瑕疵は治癒されたこと、仮に議会の議決を経ずに客観的に見れば必要性も合理性もないと考えられる和解や合理性がないと考えられる内容の和解をしたとしても、議会が後に当該和解を承認したときは、議会の議決により当該瑕疵は治癒されたと見るべきであること、同条3項は「次の会議において」議会の承認を求めなければならないと規定するにとどまり、議会の承認が次の会計年度に行われたとしてもその承認は会計年度内にされた扱いとするものと解することができることから、和解金の支払は適法であるとして、請求を認容した原判決を取り消し、請求を棄却した。
以上のように、議会の承認や追認をもって専決処分の瑕疵は治癒されるとした裁判例が少なくないが、事案による面もあるのであり、また、それがゆえに議会の承認を見越して安易に専決処分が行われるようなことは回避されなければならず、議会の側も違法な専決処分の承認についてどう向き合うべきかしっかりと考える必要がある。