2020.11.25 議会改革
第14回 長とどう向き合うか
4 専決処分
専決処分は、必要な議会の議決又は決定が得られない場合の補充的手段として、議会の権限に属する事項を長が代わって行うことを認めることで、自治行政の渋滞の防止等を図る制度であり、これには二つの類型がある。
一つは、法律の規定によるもので、議会との関係においては法定代理的な性格を有し、議会と長との間の調整手段ともなるものであり、議会において必要な議決等が得られない場合に、長が議会に代わって行うものである(地方自治法179条)。もう一つは、任意代理的な性格を有するもので、議会の委任に基づいて長が行うものであり(同法180条)、自治体の行政執行の能率化を図る手段となるものということができる。
両者は、趣旨・性格を異にし、専決処分といえば通常は前者を指すことが多い。法律の規定による専決処分は、次の四つの場合にすることができる。
第1は、議会が成立しないときである。このようなケースとしては、議会が解散されている場合、欠員により現に在職する議員数が議員定数の半数に満たない場合などがある。単に議会が長の招集に応じないために会議が開かれない場合は、これには該当しない。
第2は、地方自治法113条ただし書の場合においてなお会議を開けないときである。議会は、113条ただし書に定める①議案に利害関係があるため多くの議員が除斥され出席しうる議員が総数の半数に達しない場合、②同一の事件について再度招集・出席催告してもなお半数に達しない場合などには、例外的に出席議員が議員定数の半数に達しなくても会議を開くことができるものとしているが、その場合でも、少なくとも議長のほか2人の議員の出席が必要となることから(同法123条2項参照)、このような条件を欠く場合には専決処分をすることを認めているものだ。
第3は、長において特に緊急を要するため議会を招集する余裕がないと認めるときである。これは、議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため、議会を招集してその議決を経てから執行すると時機を失するなど、時間的な余裕がないことが明らかであると客観的に認められる場合に、専決処分を認めるものである。
第4は、議会において議決・決定すべき事件を議決・決定しないときである。例えば、会期をいたずらに空費し、相当期間内に議決しないときなど、議会が法令上議決権を有する事項について議決や決定を得ることができない一切の場合がこれに当たるとされ、その原因が議会の故意によるか否かを問うものではない。他方、議決・決定しないときとは、外的又は内的な何らかの事情により長にとって議会の議決・決定を得ることが社会通念上不可能ないしこれに準ずる程度に困難と認められる場合に限られる(3)。なお、否決は議決の一種であり、否決した場合はこれに該当しないものと解されている(4)。
長が専決処分をした場合には、議会が議決・決定したのと同じ効果を生じることになる。そして、長は、専決処分を行った場合には、専決処分後の最初の会議で議会に報告し、その承認を求めなければならないものとされている。もっとも、議会の承認については、それが得られなかったときでも、その処分の効力には影響がなく、長の政治的責任の問題が残るにすぎない。補充的・緊急的に議会に代わって行われたものが無効になるとすれば、関係者の利益を害したり行政の安定を損ねたりするおそれがあるからとされる。その意味では、議会の承認は長の政治的な責任を解除するものと見ることができる。
条例の制定改廃・予算の処置について承認を求める議案が否決されたときは、長は、速やかに必要と認める措置を講じ、議会に報告することが義務付けられている(同法179条4項)。この措置について、どのようなものを講じるかは、長において判断されることになるが、条例の一部改正案や補正予算の提出のほか、議会や住民に対する説明責任を果たすための対応などが含まれるものである。もしも、長において、十分な対応が行われなければ、議会において、長の責任を追及し、場合によっては、条例案の否決や予算の修正、さらには不信任議決に結び付くようなこともありうるというべきだろう。
他方、議会の委任による専決処分が認められるのは、議会の権限に属する軽易な事項で議会の議決により特に指定したものに限られ、これらについて、長は専決処分をすることができる。委任された事項については長の権限に移るものと解されており、議会は、委任を解除しない限り、それについての議決権を有しないことになる。なお、委任できる事項は、原則として団体意思の決定にかかわる議決権とされ、選挙・決定・同意等の権限は議会自らが行使すべきものと解されている。また、何が軽易な事項なのかは議会の判断によることになるが、法律で認められた議会の権限を包括的に委任するようなことは議会の裁量権の逸脱とされる可能性もある(5)。長は、委任された事項について専決処分をしたときは、議会の承認ではなく、議会に対し報告することが必要となる。
専決処分については、地方税条例をはじめ少なからぬ条例が専決処分により処理されていることや、議会を無視した長による不適切な行使等が問題となったことなどもあって、そのあり方が議論されるようになっている。慣例的なものとなっている専決処分による処理にも疑問の目を向けるとともに、長の濫用に対しては厳しく批判し、長との間での緊急性や議会の権限の不行使に当たる具体的な場合の明確化・ルール化など、議会としてもできるだけ限定的・抑制的に専決処分が行使されるように対応していくべきだろう。