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2020.11.25 議会改革

第14回 長とどう向き合うか

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3 再議制度

 再議制度は、長が、議会の議決や選挙について違法又は不当と認めた場合に、異議を述べ、再度の審議と議決等を要求するものであるが、この制度は、長と議会との間に対立がある場合に、長の側からこれを調整する手段として認められるものであり、国の関与を排除するといった意味もあるともいわれる。また、再議は、首長制を採用する場合に特徴的な制度であり、議会の議決の効力を失わせるものであることから、長の拒否権と捉えることができる。地方自治法は、長に異義があれば発動できる一般的拒否権と、特別の要件の下で長に発動が義務付けられる特別拒否権について規定している。
 一般的拒否権は、議会の議決について異議がある場合に、長は、その送付を受けた日から10日以内に理由を示して再議に付することができるとするものである(地方自治法176条1項)。10日以内であれば、再議に付す議決が行われた会期と同一会期でなくてもよく、臨時会を招集することも可能であるが、理由として、問題点が明示されなければならず、なぜ承服できないかもその箇所を指定して具体的に明らかにすることが必要である。ちなみに、否決された議案については何らの効力や執行上の問題も生じないことから再議に付すことはできないものと解されている。異論もあるようだが、条例案や予算の否決について再議を認めた場合には、議会が否決の効果を維持するためには出席議員の3分の2以上の賛成が必要となり、長に対する抑制機能が弱体化するといった問題などもあり、妥当とは言い難いところがある。
 再議に付された議決は、その議決のときに遡ってその効果を有しないこととなり、例えば条例案や予算は成立していない状態に戻る。なお、再議に付されるのは全体であるが、議会が再度審議対象とするのは再議において長が異議ありとした部分に限られる。再議の結果、条例の制定改廃と予算については出席議員の3分の2以上の多数、それ以外の議決については過半数により同じ議決がなされたときは、その議決は確定し、長は拒否できなくなる(同条2項・3項)。これに対し、議会が、それらの要件を満たす議決をできず、あるいは何もしなければ、会期の終了とともに再議に付された議案も再議に付された当初の議決の対象となった原案も成立せず、廃案となり、あとは要件を満たせば長による専決処分の対象となりうることになる。なお、議会の議決が再議に付された議決と異なる議決であるときは、新たな議決があったものとされることになる。
 他方、義務的再議である特別拒否権については、次の三つの場合が定められている。
 第1は、議会において違法な議決や選挙があった場合であり、議会の議決や選挙が、その権限を超え、又は法令・会議規則に違反すると認めるときは、長は、理由を示してこれを再議に付し、あるいは再選挙を行わせなければならない(同条4項)。この場合には、議決等の違法性が問題となることから再議は義務的なものとされているのであり、このため、一般的拒否権の場合には執行後は再議できないのに対し、この場合には執行後も再議に付すことができる。違法には、権限を超えた場合のほか、内容・結果の法令違背、手続や要件の瑕疵(かし)も含まれ、その認定は長が行うことになる。
 議会は、違法性のある部分を改めた上で再度議決を行うことが考えられるが、違法性の認定につき長と議会の見解が異なる場合には争訟の手続に移行することになり、長は、議会の再議決・再選挙の結果がなお違法であると認めるときは、都道府県の場合には総務大臣、市町村の場合には都道府県知事に対し、21日以内に審査の申立てをすることができ、さらに、その裁定(2)に不服があれば、議会あるいは長は、裁定のあった日から60日以内に裁判所に出訴することができる(同条5項〜7項)。訴訟では、総務大臣・都道府県知事、あるいは議会が被告となりうる。
 第2は、議会において義務費の削除・減額の議決があった場合であり、議会が、法令により負担する経費、法律の規定に基づき行政庁の職権により命ずる経費その他の自治体の義務に属する経費を削除・減額する議決をしたときは、長は、理由を示して再議に付さなければならないものとされている(同法177条1項1号)。この場合にも、再議は義務的であり、再議により議決は効力を失うことになる。そして、再議の結果なお議会の議決が改められないときは、長は、原案のとおりその経費とこれに伴う収入を予算に計上して、その経費を支出すること(原案執行)が認められている(同条2項)。
 第3は、議会において非常費の削除・減額の議決があった場合であり、議会が、非常災害による応急・復旧の施設のために必要な経費や感染症予防のために必要な経費を削除・減額する議決をしたときは、長は、理由を示して再議に付さなければならない(同条1項2号)。そして、再議の結果、議会がなおその経費を削除・減額する議決をした場合には、長は、その議決を不信任の議決とみなすことができる(同条3項)。議会の再議決を不信任の議決とみなした場合には、長は議会が再議決をした日から10日以内に議会を解散することができることになり、その場合には、長は専決処分によりそれらの経費を計上して処理することになる。なお、長は、不信任の議決とはみなさず議会の議決どおりに執行することも、とりあえず可能である。
 現行の再議制度については、例えば、条例や予算の異議再議の場合の議会での再可決には特別多数が必要であるのに、違法再議の場合の再可決は過半数で足りるとするなどのアンバランス、非常費にもかかわらず再議決を不信任議決とみなすという手法の現実的な妥当性などの問題も指摘されており、これらについては、地方自治法制定当時やその初期段階におけるGHQと日本政府の妥協の産物によるものともいわれるが、近年の再議制度の見直しを含む改正でも解消されないままとなっている。また、一般的拒否権の場合だけでなく特別拒否権の場合にも、結局は、その理由付けも含めその行使については長の判断によることとなり、さらに、長等の執行機関の側としては、再議によるのではなく、議会の議決に対して執行しないという形での異議を示す手段もありうる。これに対する議会の対抗手段はなく、その責任を問おうとするならば不信任議決等によるほかないことになる。
 拒否権の制度は、大統領制において一般的に認められている仕組みの一つといえるが、それは権力分立が徹底しているからこそ最終的な手段として認められているものであって、議院内閣制の要素が取り入れられた地方自治体の首長制の場合には、それとは異なる意味や機能をもつことになりうることにも留意が必要だろう。

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