2020.11.25 議会改革
第14回 長とどう向き合うか
慶應義塾大学大学院法務研究科客員教授 川﨑政司
二元代表制が採用されている地方自治体においては、議会と長との関係がどのようなものとなるかによって、議会の役割だけでなく、自治や行政のあり方も変わってくることになる。自治行政は、基本的に長を中心に展開されることになるだけに、長との関係を実際にどのようなものとし、どの程度の距離を置くのかは、議会における最大の関心事といえる。
1 長の位置付けを確認する
長との向き合い方を考えるにあたっては、まず相手のことをよく知っておくことが重要である。
自治体の長は、その事務を管理・執行する執行機関として置かれているもので、議会の議員とともに、住民の選挙によって選ばれる。これは、首長制・大統領制、あるいは二元代表制などと呼ばれているものであり、一つの政治勢力の独裁化を防ぎ、相互のけん制と均衡・補完・調和によって民主的で公正な行政を確保するとともに、執行機関の地位を一定期間保障することで、自治行政の安定を図ることも狙いとするものであるといわれる。
そして、自治体の執行機関の特色としては、長の公選制と執行機関の多元主義を挙げることができる。
このうち、長の公選制は、民主主義を徹底し、自治行政の民主的な運営を確保するために、執行機関を民主的な手続で構成しようとするものである。今では、「憲法上の地方公共団体」に一律に長の直接選挙を要求することの問題も論じられるようになっているが、戦前・戦中の問題を踏まえ、長とりわけ都道府県知事の公選制は、戦後の地方自治の改革においてGHQが最もこだわったところともいわれ、改革の眼目とされたものである。
他方、執行機関の多元主義は、長のほかに、長から独立した委員会及び委員を置くものであり、これは、権力分立の観点から、執行権限を分散することにより、公正妥当な執行や中立性の確保、行政運営の官僚的画一主義の防止などを目的とするものである。委員会・委員については、公安委員会を除き自治体による共同設置も可能であるものの、その種類に応じて都道府県又は市町村において必置とされているものであるが、しばしば、そのあり方が議論の俎上(そじょう)にあがり、見直しが行われてきている。
自治体における本来の権利主体は自治体そのものであり、その権限を行使する行政庁となるのが長と委員会・委員であるが、執行権限の統一性や一体性の確保の観点から、予算の調製・執行、議案の提出、地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収などは長の権限とされ、委員会・委員はそれらの権限を有しないものとされている(地方自治法180条の6)。
長は、執行権の長であるとともに、自治体を代表する機関とされ、制度的にも、実際上も、広範な権限をもっている。
すなわち、長は、その自治体を統轄し、これを代表するものとされ、その基本的な権限として統轄代表権をもつ(同法147条)。そして、そこでの「統轄」は、その自治体の事務の全般について長が総合的統一を確保する権限を有することを意味し、補助機関や他の執行機関だけでなく、議会や住民も含めて、その事務についてこれを統御し、その最終的統一性を保持するといった地位の性格を表す。また、「代表」は、長が外部に対して自治体を代表し、その自治体の行為となるべき各般の行為をなしうる権限・立場をいい、長がした行為そのものが法律上直ちにその自治体の行為となることを意味するものである。さらに、長は、その自治体の事務を管理し、執行するものとされ(同法148条)、長の権限については地方自治法149条でその主要なものが概括的に例示されているが、そこで明示されていなくても、法令の規定により積極的に他の機関の権限であるとされない限りは、長の権限との推定を受けることになるものとされる。
もっとも、実際に、そのすべての権限を長が行使するわけではなく、その職務遂行を内部的に補助するために、副知事・副市町村長、会計管理者、出納職員等の会計職員その他の職員などの補助機関が置かれており、権限の委任、代理、補助執行などにより実際の行政についてはそれらの補助機関によって執行されている。そのほか、水道事業、公営交通事業など自治体が経営する企業の組織である地方公営企業も、その組織の一部であるが、公共性とともに、企業の能率的経営・経済性の発揮の観点から、地方公営企業法により長から強い独立性を有する組織として位置付けられている。また、地方独立行政法人法により、公共上の見地からその地域で確実に実施されることが必要な事務・事業のうち、民間では必ずしも実施されないおそれがあるものについて、地方独立行政法人を設立してそれに行わせることも認められているほか、地方公社や第三セクターなどもある。
以上のように、長の権限は大きく、かつ、長による行政は大規模な行政機構によって支えられているのであり、それだけに、議会による監視が十分に機能することが必要となってくるのである。