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特集 介護とICT

2020.11.25 ICT活用・DX

介護現場におけるICTの利用促進

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 この事業は、タブレットや介護ソフトといった「モノ」を配ることではなく、それを使用する従業者の負担を軽減し介護人材を確保することが狙いです。そのため、補助の要件として、「一気通貫」という概念を盛り込んでいます。一気通貫とは、記録、情報共有、請求の各業務において、手入力で情報を入力し直す「転記」が発生せず、次の業務プロセスで使用するアプリケーションソフトにデータが自動的に反映されることを指します。一気通貫となっていない場合は、手動で転記するため、どうしても入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーをゼロにできません。一気通貫となれば、こういったエラーは限りなくゼロに近づき、介護従業者の負担が大きく削減されることが期待できます。
 この事業では、支援を受けた事業所に導入効果報告を求めており、先日、令和元年度分の報告内容をとりまとめたデータを厚生労働省ホームページで公表しました。令和元年度は、15県で実施され、195事業所に対して406件の支援を行いました。製品種目ごとの状況では、介護ソフト181件、タブレット端末109件等となっており、一気通貫を意識した構成となっていることがうかがえます。
 導入効果に目を向けると、85%の事業所で間接業務が削減され、1か月・1人当たり150分の時間削減につながったと回答した事業所もありました。それに比例して、73%の事業所は直接ケアに当たる時間が増加したと回答しています。一方、74%の事業所はケア記録等の書類の量が削減されたと回答し、57%の事業所が、転記誤り等が減少したと回答していること等、業務負担軽減を直接的に実感できていることをうかがわせる結果となっています。
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出典:厚生労働省ホームページ「介護現場におけるICTの利用促進」
図3 令和元年度ICT導入支援事業実績報告

 もちろん、ICTは導入して即効果が表れるわけではありません。支援した事業所からも、「職員のスキル」、「職場のルールや業務フロー」、「研修」等が課題、との回答がありました。ICTを導入するに当たっては、前述したガイドラインに示している留意点を参考にして、事業所内全体の業務改善を視野に入れて取り組むのが効果的だと考えます。
 また、令和元年度のICT導入支援事業の導入効果報告まとめでは、91%の事業所が「事業所内の情報連携が円滑になった」、70%の事業所が「事業所外との情報連携が円滑になった」と回答しています。ICTを活用することで、従業者個人のみならず、組織として、又は事業所をまたいで、業務効率につながる可能性を示唆しています。
 厚生労働省では、情報連携という切り口にも着目し、データ連携・情報共有を促進するための環境についても検討を進めています。まず、異なるベンダーの介護ソフトを使用している事業所間ではデータのフォーマットが不統一であることから、円滑な情報連携が行えないという問題を解決するため、平成30年度に調査研究を行いました。特に居宅介護支援事業所と介護サービス事業所の間でデータ連携を行うために必要なデータ項目や形式を規定したフォーマットの統一についての実証検証を実施しました。
 その成果を踏まえ、令和元年5月に「居宅介護支援事業所と訪問介護などのサービス提供事業所間における情報連携の標準仕様」を発出しました。これにより、様々なベンダーの介護ソフトへの標準仕様の実装が期待されるところであり、前述した「ICT導入支援事業」においても、標準仕様に対応した介護ソフトであることを助成の要件にしています。
こういった介護ソフトを活用して、事業所間で安全にデータをやりとりできるよう、令和2年度にはクラウド上でデータ連携をする際の技術的課題について実証検証を進めているところです。
 また、医療機関と介護事業所間のデータ連携・情報共有についても注目しています。令和元年度には、入退院時における医療機関と居宅介護支援事業所間でやりとりする入院時情報提供書等について、データ項目や形式を統一的に示した標準仕様案を作成しました。令和2年度はさらに訪問看護計画書等の標準仕様案を作成する予定です。

4 コロナ禍でのICT

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、介護サービス事業所も大きな負担を強いられました。そのため、介護サービス事業所の人員基準等は臨時的な取扱いをすることとしましたが、その中でも、様々な加算の要件である定期的な会議の開催や文書に代えて、電話やメールを活用し、柔軟に対応することを可能としました。また、介護支援専門員実務研修について、研修対象者に対し、ウェブシステム等の通信の活用を含む講義形式とレポートを組み合わせることで、例外的に実習を免除することを可能とする取扱いをしています。会議等のICT化については、「規制改革実施計画」、「経済財政運営と改革の基本方針2020」といった閣議決定文書でも、「テレビ会議、ビジネスチャット等のICT活用」、「対面以外の手段をできる限り活用」といった記載があります。
 また、高齢者施設等においては、新型コロナウイルスの感染拡大の状況下においては、オンライン面会(テレビ電話システムやウェブアプリのビデオ通話機能等のインターネットを利用する面会)を行うことが望ましいということで、オンライン面会を行う場合の留意点等をお示ししたところです。

5 今後の課題

 これまで述べてきたとおり、デジタル化がますます進む中、介護現場におけるICT化は従業者の負担軽減のみならず、様々な可能性があります。ICTの活用により、介護業界のイメージの刷新、様々な人材の参入促進も期待できます。また、ICT化によりビッグデータの蓄積が可能となり、エビデンスに基づく介護サービスの提供を促進することにもつながります。
 ただし、繰り返しになりますが、ICTを導入しただけでは介護現場の業務負担軽減にはつながりません。業務フローの整理、報告や情報共有の工夫等、生産性向上の取組みと一緒に取り組んでこそ、大きな効果が期待できるものと考えます。
 また、情報セキュリティに対する意識を高めることも重要です。介護事業者は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の対象とされており、患者に関する医療情報を取り扱う場合は、このガイドラインに沿って情報セキュリティ対策を施す必要があります。この情報セキュリティ対策についても、組織として対応する必要があるため、生産
性向上の取組みと併せて行うことが有効だと思います。
 介護現場におけるICTの導入を進めていく上では、こういった課題があることを認識しつつ、介護事業所の負担軽減、生産性向上を進めるために、引き続き取り組んでまいります。

 

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