2020.10.26 議会改革
第13回 自治財政における議会の役割を再認識する
6 ガバナンスと議会の役割
自治行財政のあり方を考える上で、統治能力や自己統治の向上、あるいは合法性・透明性、マネジメント、さらにはステークホルダーである住民等との協働などをも含んだガバナンス(グッドガバナンス)の確立が重要な課題となっている。
特に、少子高齢化、財政状況の悪化、自治体の事務の複雑・多様化などにより、最少の経費で最大の効果を挙げ、住民のニーズに応えていく上で、自治体の事務の適正性の確保や行政サービスの提供体制の規模等の適切化が求められるようになっており、自治体の規模や地域の実情に即して、その要請に応える仕組みを整備することで、今後増えるであろう合意形成が困難な課題により集中して取り組んでいくことが必要である。
ガバナンスということでは、コンプライアンス(法令等遵守)や監査委員の監査の強化などの取組みが進められてきたほか、地方自治法においては、2017年の改正により、長が、財務をはじめその担任する事務の管理・執行が法令に適合し、かつ、適正に行われるための内部統制に関する方針を定め、これに基づいて必要な体制を整備することが規定されるに至っている(150条)。都道府県と指定都市は義務、その他の市区町村は努力義務とされているものだが、長による内部統制については、毎会計年度少なくとも1回以上、方針と体制に関する評価報告書を作成して、監査委員の審査に付し、その意見を付けて議会に提出するとともに公表することが義務付けられている。
ガバナンスということでは、長や監査委員による内部的統制だけでなく、議会や住民による外部的統制も重要であることはいうまでもない。
とりわけ、議会と長との抑制・均衡の関係は、伝統的なガバナンスの形態であり、やはり基本となるものといえる。また、地方自治において主人公は住民であり、住民自治を前提に長、監査委員、議会の役割やそれらの関係を改めて考えるとともに、住民と協働することでその役割を果たし、監視・抑制・均衡の仕組みがより機能していくようにすることが大事である。すなわち、資源が限られる中で、長、監査委員、議会、住民が方向性を共有しながら、それぞれが有する強みを活かして適切な役割分担を図り、協働型(相互補完型)のガバナンスを構築していくことが重要であり、そのことが住民の信頼を向上させ、人口減少社会に的確に対応することにもつながってくるといえるだろう。
グッドガバナンスについては、結局のところ、日常の自治体運営においてそれらのアクターの間でそれぞれの抑制と均衡が図られ、監視の役割が果たされるかどうかにかかっているのであり、そのためにも、透明性の向上と住民の政策過程への責任ある参加等のためのシステムを整備していくことが必要である。
人口減少社会において増大する困難な課題について民主的に合意形成を進める上で、議会の役割は重要であり、自治体ガバナンスにおける適切な役割分担の観点から、議会運営において自主性を発揮し、内部統制体制や監査委員の監査等が十分に機能しているかどうかをチェックするとともに、政策の有効性やその是非について積極的かつ適切にチェックを行うなど、議会としての監視機能を十分に発揮していくことが求められている。そのためにも、議員のなり手(人材)の多様化とともに、議員の意識やスキルの向上の問題は、避けて通ることはできないといえる。
(1) 地方交付税は、地方財源の均衡化を図り、かつ、地方行政の計画的な運営を保障するために、国税のうち、所得税・法人税・酒税・消費税のそれぞれの収入額の一定割合と地方法人税の収入総額を、一定の基準により算定した各地方自治体ごとの財源不足額の規模に応じて、国が自治体に対して配分する税。地方譲与税は、形式上、国税として徴収された特定の税の全部又は一部を一定の基準により自治体に譲与するものであり、実質的には自治体の財源とされているものにつき課税上の便宜その他の事情から徴収事務を国が代行しているもの。国庫支出金は、自治体の特定の支出に充てるため、一定の目的と条件のもとに国庫から支出される財政資金のことをいい、具体的には、補助金、負担金、交付金、助成金、委託費などの名称で自治体に交付されているもの。
(2) その理由として、最高裁は、「憲法は、普通地方公共団体の課税権の具体的内容について規定しておらず、普通地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律でこれを定めるものとし(92条)、普通地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるものとしていること(94条)、さらに、租税の賦課については国民の税負担全体の程度や国と地方の間ないし普通地方公共団体相互間の財源の配分等の観点からの調整が必要であること」を挙げている。
(3) 地方債における借入れの形式としては、借入先に借用書を提出して資金の貸付けを受ける証書借入れと、地方債証券を発行し金融機関等が引き受けることによって資金を調達する証券発行の二つがあり、また、地方債の資金については、大別すれば、公的資金(政府の財政融資資金・地方公営企業等金融機構資金)と民間等資金(市場公募資金・銀行等引受けによる縁故資金)がある。
(4) なお、実質公債費比率が一定未満の財政状況が良好な自治体で協議不要基準額を超えない団体については、民間資金をもって起債を行おうとする場合には、協議は不要とされ、届け出ることで足りるものとされている。
(5) 同判決では、住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権や不当利得返還請求権の放棄の議決について、「個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、当該議決の趣旨及び経緯、当該請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法〔地方自治法〕の趣旨等に照らして不合理であって……裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となる」との判断を示している。
(6) なお、地方公営企業の決算については、管理者が毎事業年度終了後2か月以内に調製し、長に提出するものとされている。
(7) この監査委員による審査は、①計算に過誤はないか、②実際の収支が収支命令と適合しているか、③支出が適法になされたか、④財政運営が適法になされたか、⑤予算が目的に沿って効率的に執行されたか、などを主眼として行われるものである。審査の結果については、監査委員の合議により意見として決定される。
(8) 地方自治法243条の3第2項によるもので、当該自治体が設立した地方住宅供給公社・地方道路公社・土地開発公社、当該自治体が資本金等の2分の1以上を出資している法人、当該自治体が資本金等の2分の1以上に相当する額以上の債務を負担している法人などが対象となる。
(9) 例えば、可児市議会のように、議員間自由討議等も絡めて決算認定の際に課題を抽出しそれを次年度予算に反映させる予算決算審査サイクルを確立しているところや、京都府議会のように、9月定例会の決算特別委員会において、議会として意見・提言を取りまとめ、2月定例会でそれに対する「措置状況報告書」を長から提出させ予算審議を行う取組みなどを行っているところもある。
(10) 総務省は、2015年1月の通知「統一的な基準による地方公会計の整備促進について」で、統一的な基準による財務書類等を原則として2015年度から2017年度までの3年間ですべての自治体において作成し予算編成等に積極的に活用することを要請し、その結果、2020年3月31日時点で、指定都市以外の市区町村で若干未着手のところは見られるものの、ほとんどの自治体で統一的な基準による財務書類の作成と固定資産台帳の整備が行われている。
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