2020.10.26 政策研究
【セミナーレポート】「公共私連携」を考える
2020年9月19日(土)、自治総研セミナー「『公共私連携』を考える―介護保険制度20年目の課題」がオンラインにて開催された。冒頭、自治総研の上林陽治氏より、問題提起があった。地方分権改革や介護保険制度、NPO法の制定から20年経った現在、財政や地域社会の維持など「共」の持続可能性が問われ始めている。「公共私連携」の現実と「共」の可能性について再考すること、地方自治体の役割を検討することなどが本セミナーの狙いであると語った。
次に、大森彌氏(東京大学名誉教授)へのインタビューが行われた(聞き手 今井照氏(自治総研)。70年代頃より市民の側ら公共空間を取り戻すという動きが出て来た。そうした官からの公共、住民からの公共というせめぎ合いの中で、介護保険制度や地方分権改革が生まれた。いずれも大森氏が関わった改革である。インタビューでは当時を振り返りつつ、現政権下での課題などが話し合われた。分権改革の大きな柱は事務権限の委譲と様々な規制の緩和であり、国の関与を出来るだけ外していくということだった、と大森氏は語った。それは突き詰めると「住民自治の充実」であり、地域の課題は地域の住民が主体となって解決するということである。同時にこれは非常に難しいものである、との吐露もあった。しかし、地方自治が地方自治であるためには、住民自身が担うことがどうすれば可能になるかをどこかで考える必要がある、と指摘した。
次に、高端正幸氏(埼玉大学)による講演があった。高端氏からは、自助がダメなら共助そして公助、ではなく、自助・共助・公助は相互補完関係にあるという指摘があった。公共私のベストミックスをそれぞれの地域で探っていくための課題等を考えることが必要とした。さらに、公的サービスの縮小局面では財源不足が得てして挙げられるが、そうではなく逆にニーズを満たすために税負担をあげるのは一つの選択肢ではないかといった投げかけもあった。歴史的にみれば、人間は生存のために共同性を編み直し続けてきた。網み直しの方法を引き続き考えなければならない、と語った。
続くパネルディスカッションでは、「『私』を支える『共』のしくみと『公』の役割」と題して議論が行われた。登壇は堀越栄子氏(日本ケアラー連盟代表理事)と森安東光氏(武蔵野市福祉公社)。堀越氏からはケアラー支援について解説があった。「ケアラー」とは、心や体に不調のある人へ、「介護」「看病」「療育」など、無償でケアする人をいう。近年18歳未満でケアを行うヤングケアラーの存在も顕在化しており、ニーズを踏まえた適切な支援が必要、とした。連盟では埼玉県議会に働きかけ、この3月に議員提案条例で全国初の「埼玉県ケアラー支援条例」が制定された。
森安氏からは、武蔵野市の地域包括ケアシステムに関する説明があった。武蔵野市では高齢者福祉総合条例に基づき総合的な施策体系を構築。住宅、雇用、保健・医療、介護予防・生涯学習、交通体系など、多面的に高齢者の暮らしを支える事業が展開されている。介護保険条例に基づく各種事業はその中の一部として位置づけられている。武蔵野市の独自事業である「テンミリオンハウス」は、市民の「共助」の取り組みに対し年間1,000万円を上限とした運営費補助を行うもので、元気な高齢者は支える側となり、食事を通した交流と健康維持などのミニデイサービスを提供しているという。
分権改革や介護保険制度創設時の理念を振り返りつつも、人口減少が進む中で、どう公共私が連携し、地域社会において人々の暮らしを支えていくのか、改めて考えさせられるセミナーだった。国の施策が迷走する中で、草の根の活動、自治体の創意工夫に満ちた事業展開に希望の光があるように感じた。