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2020.10.12 議会運営

第52回 議会の議決を得るべき契約の追認は可能か?

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 この条文を前提に考えると、回答案Bがいうように、「今後、改めて締結する契約として」議決を求めるしかできないことになります。
 その一方で、行政法では「行政行為の治癒」という概念があります。これは違法な行政行為であっても、「関係者の利益そのほかいろいろな事情を考え合わせて、例外的に、行政行為をそのまま有効な行為であるとするケースのことです」(藤田宙靖『行政法入門〈第7版〉』(有斐閣、2016年)134頁)。ただ、これは違法性がそれほど大きくない行為に当てはめられるものであり、さらにいうと、そもそも、議会の議決は自治体内部の行為であって行政行為ではありません。
 ではこの場合、どうすればいいのでしょうか?
 参考になる判決(東京高判平成25年5月30日判例地方自治385号11頁)があります。ある村で議会の議決に付さなければならない契約について村長が専決処分を行いました。ところが、その専決処分が違法なものであり結ばれた契約は無効であるとして住民訴訟が起こされ、第一審ではその原告の主張が認められました。そこで、長はこの契約の追認を議会に求め、議会は追認する議決をしたのです。ところが、控訴審では、専決処分はそもそも違法ではないし、議会が追認議決したことをもって、「その瑕疵(かし)が治癒されたものというべきであり、したがって、この点からも」専決処分は違法でないとしました。
 少し事情は違いますが(※)、議会が議決すべき事項について追認するという手法を認めた例ということはできそうです。この判例も「無効な行為をなぜ追認できるのか?」ということには答えてくれていません。しかし、回答案Bのように、いったん契約を無効なものとしてしまうと、議会の議決を得なかった自治体が相手方から損害賠償を求められることも考えられます。その意味では、その契約を議会が認めたくないならともかく、そうでないなら追認という方法で、契約の効果を遡らせる扱いをすることは現実的な対応といえるでしょう。回答案Cは法律の規定の趣旨をそもそも没却することになり、「やったもの勝ち」を招きますので、とることはできません。回答としてはAとしたいと思います。

実務の輝き・提言

 契約の追認を求める議案は、その性格が分かるように「◯◯契約の締結について(追認)」などの件名を付すのがいいかもしれません。誤りは誰にでもあるものです。しかし、それを隠したり、変な言い訳をすると相手の心証は悪くなります。これは対議会であっても同じです。「原課が悪い」といっても、執行部全体としてミスに気がつかなかったのです、真摯に謝罪し議会に追認の議決をお願いしましょう。また、ミス発見から議会への報告まで時間がかかることも考えものです。できるだけ速やかに議会には情報を伝え対応しましょう。先延ばしにしてもいいことは何もありません。また、執行部側から「契約を結んでしまったので、損害賠償請求される可能性もあります。追認していただくしかありません」などと開き直って追認を求めるのもやめましょう。すべての事情を含めて判断するのは議会なのです。
 なお、通常の場合でも、先に仮契約して議決を求めるわけですが、仮契約は「議会での議決を得たら契約をしましょう」という意思の確認をしたまでのことです。信義則に反するような行為を相手方にしない限り、たとえ議案が否決されても、損害賠償責任を負うことはありません。ですから、是々非々で議会は議決に望めばいいのです。


※ 控訴審では、そもそも専決処分は違法ではないとしているのですから、追認の効果について言及している部分は余分な部分と評価することもできます。また、治癒されたのは直接的には専決処分の瑕疵です。結果として契約が有効になったにすぎません。そうはいっても、議会の追認議決という手法を否定していない点は参考になります。

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