2020.10.12 議会運営
第52回 議会の議決を得るべき契約の追認は可能か?
議会事務局実務研究会 吉田利宏
お悩み(ミスはミスさん 50代 総務部総務課長)
ある市の総務部総務課長をしております。ご存じのように予定価格が一定の金額以上の契約を結ぶ際には、議会の議決をいただかなくてはなりません。ところが、原課が契約の単位の数え方を間違え、議決対象ではないということで先方と契約をしてしまいました。議会の議決を潜脱するつもりはなかったのですが、議会に対して大きなミスをしてしまいました。
私の役割は、全員協議会で謝罪して事情を説明し、改めて議会の議決をいただく議案を提出することです。ところが、こうしたことは初めてで、どのような形で議案を提出したらいいのか悩んでいます。議決がない契約は無効であるとも聞いたことがあります。これまでの契約はいったん解除して、改めて、契約の締結について議会の議決を求めることが筋なのでしょうか。どのような形で議案を提出したらいいのか、ご指導をいただけたらと思います。
回答案
A 契約を結んでしまっていることもあり、この契約の追認を求める形の議案がよい。
B 現在の契約は無効であり、存在しないと扱えるのだから、追認で契約の効力を遡らせることはできない。今後、改めて締結する契約として議決を求める議案とすべきだ。
C 全員協議会で議会側の理解を得ることが前提だが、すでに契約を結んでいるのだから、議会への報告事項にとどめるべきだ。
お悩みへのアプローチ
地方自治法96条1項5号には、議会の議決が必要な事項として「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること」とあります。ここでいう政令というのは、地方自治法施行令121条の2第1項です。議会の議決に付すべき契約の具体的な種類や額については、それぞれの自治体の条例で定められています。予算は議会が議決したものですし、その予算の範囲で何らかの契約を結ぶことは、本当なら行政に任されたことといえます。しかし、予定価格が一定額以上の契約については議会の議決にかからしめ、長に対する監視を強化しようとするのがこの規定の趣旨です。
議会の議決には、契約の目的、方法、金額、相手方等が明らかにされなければならないとされています(行政実例昭和25年12月6日)。ですから、議会の議決を受けて契約相手を探すのではなく、一般的には、先に仮契約を結んでおいて、議会の議決とともに本契約に移るというやり方をしています。
ところが、本来なら議決が必要とされる契約が原課で見過ごされることがあります。議決が必要とされる契約を結ぶ機会が多い部署ならそんなことはないでしょうが、たまにそうした契約がある課では気がつかないということがあるようなのです(それでも誰かが気がつきそうなものですが……)。また、契約の単位の数え方などから議会の議決を経ないで契約し、後から「議決が必要なのではないか……」と指摘を受けることもあるようです。確かに、物の本には、議決事項に関して、たくさんの行政実例やQ&Aが掲載されていますから、気をつけなければならないことも多く、問題が生じることもあるのでしょう。
議会の議決が必要だったのに求めていなかったとなると、もちろん、その後の対応が必要となります。とにかく議会に事情を説明し、契約につき議決を求める議案を提出しなければなりません。総務課長であれば、この仕事を引き受けざるを得ないでしょう。損な役回りながら、仕方がありません。
回答へのアプローチ
契約締結に当たっての議決は、執行機関の執行の前提となる議決なのですから、議決を欠いた契約は無効のはずです。無効というのは、始めから効力を生じない状態を意味します。民法では次のような条文があります。
◯民法
(無効な行為の追認)
第 119条 無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。