2020.09.25 議会改革
第12回 条例づくり10箇条
【判例から学ぶ】
○紀伊長島町水道水源保護条例事件
産業廃棄物処理業者Xは、三重県紀伊長島町内に産業廃棄物中間処理施設を建設することを計画し、1993年11月にこの施設に係る事業計画書を三重県に提出した。その後、三重県及び紀伊長島町の関係機関との間で事前協議会がもたれ、それを通じXの計画を知った紀伊長島町は、1994年3月に紀伊長島町水道水源保護条例(水質汚濁や水源枯渇をもたらし、又はそのおそれのある事業場等であると町長に認定された規制対象事業場の設置を、紀伊長島町水道水源保護地域において禁止する内容)を制定した。本件施設の建設予定地が水道水源保護地域に指定されたので、Xは条例の規定に従って紀伊長島町長に協議を求めたが、同町長は、地下水取水量が日量95立方メートルであることを重視した紀伊長島町水道水源保護審議会の意見に従い、本件施設を規制対象事業場に認定した。これに対し、Xは、廃棄物処理法に基づき三重県に対して施設の設置許可の申請を行い許可を受けたが、本件条例により施設を設置することができなかった。そこで、Xは、規制対象事業場認定処分の取消しを求めて出訴した。
第1審及び控訴審は本件認定処分を適法としてXの請求を棄却したため、Xが上告し、最判平成16年12月24日民集58巻9号2536頁は、条例が定める事前の事業者との協議は、規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると条例の中で重要な地位を占める手続であるとした上で、町としては、本件処分をするにあたっては、条例の定める手続において、既に手続を進めていた事業者の立場を踏まえて、十分な協議を尽くし、予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、事業者の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったのであり、それに違反してなされた処分は違法となるとして、審理を尽くさせるために差し戻した。これを受け、差戻控訴審である名古屋高判平成18年2月24日判タ1242号131頁は、配慮義務に違反して本件処分を行ったとして、本件処分を違法とし、Xの請求を認容する判断を示し、最決平成19年6月7日により 11 これが確定した。その後、2008年1月に、紀北町(2005年に合併)に対して、Xから約160億円の国家賠償請求が提起され、控訴審である名古屋高判平成26年11月26日D1-Law判例体系判例ID28254456は第1審判決が認めた額を減額し委託費用と弁護士費用を合わせ約4,000万円の支払を町に命じ、最決平成28年4月26日の上告棄却によりこれが確定し、町は遅延損害金も含め約8,000万円の損害賠償金を支払った。
○高知市普通河川等管理条例事件
河川法が管理の対象としていない普通河川の管理について定めた高知市普通河川等管理条例について、最判昭和53年12月21日民集32巻9号1723頁は、河川の管理について一般的な定めをした法律として河川法が存在し、その適用も準用もない普通河川であっても、同程度の河川管理を行う必要が生じたときはいつでも適用河川や準用河川として指定することによりその対象とする途(みち)が開かれていることに鑑みると、河川法は、普通河川については、適用河川や準用河川に対する管理以上に強力な河川管理は施さない趣旨であると解されるから、地方自治体が条例をもって普通河川の管理に関する定めをする場合も、河川法が適用河川等について定めるところ以上に強力な河川管理の定めをすることは、同法に違反し許されないとした。
○飯盛町旅館建築規制条例事件
旅館業を目的とする建築物を建築しようとする場合に当該建築及び営業に関する所轄官庁への認可申請前に町長の同意を要することとし、その同意の基準を定めた飯盛町旅館建築の規制に関する条例について、福岡高判昭和58年3月7日行裁例集34巻3号394頁は、条例により旅館業法よりも強度の規制を行うには、それに相応する合理性(これを行う必要性が存在し、かつ、規制手段が必要性に比例した相当なものであること)が肯定されなければならないとした上で、その内容が旅館業法に比し極めて強度のものを含んでおり、強度の規制を行うべき必要性や規制手段をとることの相当性を裏付けるべき資料を見いだすことはできない、規制の対象となるモーテル類似旅館営業が明確でない、当該規制と比較してより緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制の有無・適否が検討された形跡がうかがえないとして、当該規制が比例原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳(はいち)するものとして同法違反とした。なお、上告審では、本件条例が廃止されたことから上告が棄却されている。