2020.09.25 議会改革
第12回 条例づくり10箇条
6 立法事実に目を向け、検証する
条例の制定にあたっては、地域の事情・個性、問題状況等に適した条例づくりを目指すべきことはいうまでもない。
その場合に重要となるのが、立法事実である。立法事実は、立法の必要性や合理性を支える社会的・経済的・政治的・科学的な事実であり、立法内容の法的評価などを行うにあたって前提となるものであるとともに、将来にわたってその合理性を基礎付けるものである。とりわけ、その内容が憲法の保障する人権を制約するものであるときは、その存在が厳しく問われることになる。
ところで、立法事実というと、現に社会に生じている問題状況などの事実を把握することと理解されがちである。確かに、立法にかかわる社会状況や社会的な要求・意識などを把握することは必要不可欠となるが、そのような生の事実の調査や資料の収集だけでは十分とはいえない。立法事実の検討においては、その事実の背景や原因の分析のほか、現在の事実だけでなく、将来的な事実まで予測・考慮することが必要となる。そして、そこでは、立法事実は、裏付けとなりうる事実が取捨選択された上、説明可能な抽象的な命題の形で因果的・論理的に構成・整理されるとともに、それに並行して、実効性や効果・影響、それによってもたらされうる不利益、より少ない損失で同じ利益を達成できる手段の有無などが検討され、そのメリットとデメリットが比較衡量されることになる。
もっとも、その一方で、立法事実の存在やそれにかかわる因果関係は常に科学的に証明されなければならないものではなく、事柄に応じて一定程度の蓋然性で足りる場合もある。常に科学的に厳格な証明を求めることは、現実的ではない面があり、不毛な議論となり必要な立法がほとんどできなくなってしまいかねない。また、実際の立法におけるその検討の限界ということもある。現実の社会は極めて複雑かつ流動的で、不確実性が高まっており、立法事実を完全に把握することなどおよそ困難である。しかも、実際には、限られた時間と情報の中で検討が行われざるをえず、人間の能力の限界ということもある。さらに、条例による試行錯誤的・実験的な対応ということも考慮し、弾力的に考えることが必要な場合もある。
その意味では、立法事実の問題は、「根拠」に基づいた立法を目指すものではあるが、合理的な説明とその論拠を問うものでもあり、一定の事実の裏付けにより、思い付きや思い込み、世論に対する無条件反射、恣意、感情などの要素を排除することになるものといえる。
立法事実は、立法の必要性・合理性を根拠付ける理由として積極的に提示され、説明されなければならず、また、議論や審議の過程を通じて認定されていくものであって、最終的な判断を行うのは議会である。とりわけ、その判断には不完全性や不確実性などを伴い、主観や恣意が入り込みやすいことからすると、できるだけ適切に行われるようにするためにも、そのプロセスが重要な意味をもつことになる。そして、そこで大事となるのは、立法の必要性・合理性とともにその根拠とされた事実や資料ができる限り明らかにされ、議論されること、そしてその透明性が確保され、住民の前に明らかにされることである。すなわち、立法過程において、どのような事実が検討され、考慮され、それによってどのような判断がなされたかが明らかにされ、多くの議論や他者の検証・批判にさらされると同時に、記録・公表されることで、恣意の排除や、その判断の適切さの確保にもつながってくる。また、そのことは、事後評価や紛争(裁判)への対応の際にも役立つことになる。そして、その点からも、議会の審議のあり方が問われることになってくるのである。