2020.09.25 議会改革
第12回 条例づくり10箇条
【判例から学ぶ】
○国立マンション事件
マンション事業者Xが、国立市の大学通りの一角で高層マンション建設を計画し、1999年8月に「開発行為等指導要綱」に基づく事前協議の届出を国立市に行ったが、計画内容が知られると、住民の間にマンション建設反対運動が起こり、市はマンションの高さをいちょう並木と調和する高さにするよう行政指導を行った。Xは建物の高さを44メートルに変更したもののそれ以上の計画変更には応じない姿勢を示したため、周辺住民が当該区域の建築物の高さを20メートル以下に制限する内容を含む地区計画の策定を求める要望書を市に提出し、これを受けて市は地区計画案を策定した。これに対して、Xは、東京都に建築確認申請を提出し、2000年1月5日に建築確認を受け、根切り工事に着手した。他方、1月24日に地区計画が告示され、1月31日の臨時市議会で地区計画条例が可決され翌日に施行された。建設着手後は住民による訴訟などが提起されるも、2001年12月にマンションが完成、分譲が開始された。
マンション建設をめぐっては、①地区計画条例制定反対派の議長や一部議員が出席議員と市長を相手取って議決の無効と損害賠償を求める訴訟(東京地裁が請求棄却)、②反対派住民によるマンション建築禁止の仮処分の申立て(東京地裁八王子支部・東京高裁が却下)、③反対派住民による東京都に対するマンションの20メートル超の部分の除却命令等を発しないことの違法確認及び命令の義務付け訴訟(違法性を認めた東京地裁判決を東京高裁が取り消し、最高裁も上告受理申立てを不受理)など、様々な訴えが裁判の場に持ち込まれたが、特に注目を集めたのは、④反対派住民によるXに対する高さ20メートル超の部分の撤去を求める訴訟と、⑤Xによる国立市への損害賠償と地区計画条例の無効の確認等を求める訴訟である。④については、撤去をめぐり東京地裁と東京高裁で判断が分かれ、最判平成18年3月30日民集60巻3号948頁が、景観利益は法律上保護に値すると認める一方、その違法な侵害とするには侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制違反、公序良俗違反や権利の濫用に該当するなど社会的な相当性を欠くことが必要とした上で、着工の時点で国立市が景観保護策を講じていなかったとして、撤去を認めなかった控訴審の判断を支持した。
他方、⑤については、4億円の損害賠償を命じた東京地裁に続き、東京高判平成17年12月19日判時1927号27頁は、市及び市長の一連の行為は建築・販売の阻止を目的とする行為・営業活動の妨害行為であり、その態様は自治体及びその首長に要請される中立性・公平性を逸脱し、急激かつ強引な行政施策の変更、異例かつ執拗(しつよう)な目的達成行為であって、社会通念上許容される限度を逸脱しているとする一方、事業者側の強引な手法にも問題ありとして2,500万円の損害賠償を命じる判断を示した。この判決に対し市議会が上告を承認しなかったため国立市は上告しなかったところ、反対派住民が補助参加人として上告したが棄却された。市は、Xに損害賠償金及び遅延損害金として3,123万円余を支払ったが、Xは同額を国立市に寄附した。
これについては、⑥住民からXに支払った損害賠償金と同額を元市長個人に対して請求するよう国立市に対する住民訴訟が提起され、東京地判平成22年12月22日判時2104号19頁は、元市長の行為が市長として求められる中立性・公平性を逸脱したと認められるとし、市に対して元市長に損害賠償請求を行うよう命じた。これに対し、市は控訴したが、その後、市長の交代などもあり控訴を取り下げ、判決が確定した。⑦国立市は、当該判決に基づき元市長に損害賠償金を請求したものの拒否されたため、元市長に対し損害賠償を求めて訴訟を提起したが、他方で、市議会が元市長に対する市の債権を放棄する決議を行った。これを受け、東京地判平成26年9月25日は、市議会の賠償請求権の放棄の議決にもかかわらずそれに異議を申し立てることもせず請求を続けたことが信義則に反するなどとして、請求を棄却する判決を言い渡したが、市は控訴するとともに、今度は市議会が元市長に対して請求権の行使を求める決議を行った。そして、東京高判平成27年12月22日判例地方自治405号18頁は、第1審判決を取り消し、元市長の一連の行為は社会的相当性を逸脱するものであり、景観利益保護という目的の公益性があったとしても、それによって手段の違法性を阻却するものではない、最新の議会の議決に基づくべきなどとして、元市長に全額の支払を命じ、上告審の最決平成28年12月13日が請求を棄却し、控訴審判決が確定した。