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2020.09.10 議会運営

第7回 課題共有型円卓会議(えんたく)の実践と効果

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龍谷大学政策学部教授 土山希美枝

 前回、前々回と2回にわたり、課題共有型円卓会議(えんたく)は、議会にとって「課題共有」の機会、良質な情報を市民と共有してその声を得る「市民参加」の機会として価値のある「話し合い」手法であることを紹介し、その手法を解説してきたが、今回はそれを応用した議会の実例を紹介したい。
  今回の記事は、長野県飯田市議会副議長である原和世氏、議会事務局議事係長である筒井文彦氏に、2020年1月に龍谷大学の研究会(1)で報告いただいた資料に加え、原稿執筆に当たってインタビューを行って取材し、作成したものである。もちろん、文責はすべて筆者にある。

1 飯田市議会の「二つのえんたく」

  おそらく全国で唯一「自治基本条例をつくった議会」である飯田市議会では、2019年度に2タイプの課題共有型円卓会議(以下「えんたく」という)を開催した。社会文教常任委員会での「飯田市の『子ども家庭支援の現状』と課題の共有〜子どもを虐待から守るために」と、議会報告会分科会での「子どもを見守り育む地域社会について」である。
  議会による自治基本条例の策定(2006年)では、議会の附属機関として「市民会議」を設置、改選を挟んでも継続して市民の参加を得ながら策定し、その後も「話し合い」の蓄積を重ねている。自治基本条例に根拠を持つ議会報告会の開催も積極的で、現在は市内7ブロックで開催し、全体説明の後、常任委員会ごとに分かれ分科会形式で対話の機会を設けており、参加者も増えている。うらやましいと感じる読者も多いかもしれない。しかし、飯田市議会副議長の原和世氏は、2019年にえんたく形式での開催を決めた背景に、「テーマを設定しても、必ずしも関心を持って集っていただけるわけではない」、「来てくれた人全員の話が聞ける形ではない」議会報告会での市民との話し合いのあり方について問題意識を感じていたという。
  飯田市議会の各常任委員会は2年任期となっているが、毎期、委員会活動のテーマを定めて調査・検討を行っている。2019年の社会文教常任委員会では「子どもを見守り育む地域社会について」をテーマとして活動していた。その中で、飯田市の子ども家庭支援の現状についての行政との話し合い、また市民との話し合いの機会について、設定や形式などをめぐって模索していたという。
  ちょうどその時期に意見交換する機会を得ていた筆者が、市民との話し合いの機会に「えんたく」の形式を紹介し、推薦した。ただ、提案の形式のままでは時間や地区ごとに行う議会報告会の分科会の回数といった機会との兼ね合い、また、「子ども家庭支援の現状」が具体的になれば、個人情報の問題にかかわりうる課題の難しさという点もあった。結果として、飯田市議会のアレンジによる、議員と市民、議員と職員の間の、二つの型の「えんたく」が開催されることになった。

2 2019年社会文教常任委員会での「えんたく」

  2019年9月11日、社会文教常任委員会で「飯田市の『子ども家庭支援の現状』と課題の共有〜子どもを虐待から守るために」と題した「えんたく」が開催された。時間は90分で、えんたくとしては短めだが、センターメンバーの人数を絞り、論点提起とそれをめぐる実態の情報共有(第1部/1st Session)、議員と職員で構成される参加者同士の意見交換部分(シェアタイム/Sub Session)に重点を置いた構成とした。
  話題提供者は長野県飯田児童相談所長の塚田由美氏で、管内の児童虐待にかかわる提起から始まった。センターメンバーは、市の子育て相談の実態や子育ての行き詰まり予防の取組みを語る、飯田市子ども家庭応援センター(要保護児童対策地域協議会事務局)所長の簑和巌氏、家庭教育環境に何らかの問題が考えられる児童のケースを把握する立場から、飯田市教育委員会教育相談員の大蔵和幸氏、子育て期にある家庭の代弁者としてNPO法人おしゃべりサラダ代表で飯田市主任児童委員会長でもある、松村由美子氏で構成された。司会は筆者が務めた。
  参加者は社会文教常任委員会に所属する議員、また教育長、保健福祉部長を含む教育福祉部門の職員、保健師の35人程度となり、あらかじめ職員2人に議員1人となるよう着座した。センターメンバーにとっては、背後に関係者や上司もいる状態で、登壇者も参加者も近しい、いわば「関係者によるえんたく」となった。
  そのため、当初、センターメンバーでのやりとりは公式見解から抜け出ない硬さがあった。えんたくでの「事実」の共有は、公式見解だけでなく、それを踏まえ提起されたテーマをめぐる視角や認識、その課題に向かい合う者の「生の思考」が加わることで、立体的、多面的になっていく。立場ではなく話者自身の問題意識は、話し合う「場」への安心感がなければ現れてこない。話者同士の情報提供から、話者の問題意識を引き出すことに努めながら、司会を進めていくこととなった。ただ、多様な立場、視角を持ったセンターメンバーの構成は、こうしたときに、ある話者の情報や意見を手がかりに、他の話者のそれを引き出しながら、話し合いの「場」を展開していくことができる。
  硬さを残しながら入ったシェアタイムは、しかし、議員と職員の間に通常のえんたくと相似の、積極的な意見交換の様子が見られた。第1部での情報提供に加え、「3人1組」という雑談や懇談のような話し合いのサイズが功を奏した部分が大きいのではないだろうか。立場が問われる話し合いの場ではなく、率直な意見交換をそれぞれの参加者が意義あるものとして味わっているように思われた。なお、もともと、第1部での発話が硬くなるであろうこと、職務にかかわる話し合いの場であることから、「立場はいったん置いて、個人として話す」、「この場での話を外部に持ち出さない」といった話し合いの「グランドルール」を提示していた。このことが話しやすさを劇的に変えるとは思われないが、明示し確認しておくことで、場の前提が了解される意味はあるだろう。
  通常の「えんたく」では画用紙等に書いて提出してもらう「シェアタイムで話したこと」は、参加者が35人程度であることと、運営時間の制約があり、ホワイトボードに代表者が書いていく形をとった。それらを踏まえて、短い時間ではあるが、第2部を行った。シェアタイムでの話題、第1部でのやりとりから話題を選び、それぞれの思うところを中心に語ってもらった後、総括としてセンターメンバーそれぞれから一言を得て、司会としてまとめた。
  なお、ファシリテーショングラフィックは、今回は手配が難しく、筆者がタブレットにメモしたものをスクリーンに映し出す形にした。技術的には無理ではなかったが、スクロールしなければ全体像が見えない、また光の関係でカメラで撮影しにくいこともあり、事後に画像ファイルを共有した。当然のことだが、専任のファシリテーショングラフィッカーが必要であり、ホワイトボード等を用いる方が「話し合い」の実りを確認する方法としての効果も高いと思われた。

200907議員NAVI写真シェアタイム後半、3人1組で話し合った内容をホワイトボードに記していく。
ホワイトボード前にセンターテーブル。

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