2020.08.25 議員活動
第5回 災害直後の生活を支える制度と仕組み
関東学院大学法学部地域創生学科教授 津軽石昭彦
第5回(第9講、第10講)のポイント
1 災害救助法では、被災者の当面の支援全般を「救助」としており、都道府県が事務の主体であるが、避難所の設置など実際の運用では市町村の役割が大きい。
2 避難所運営では、平時からの物資の備蓄等のほかに、長期の避難所開設に備えた運営の体制やノウハウを平時から準備しておくことが重要である。
3 災害直後には、様々な行政機関、民間・地域の団体が関わることから、組織の縦割りを超えた発想や取組みが大切である。
第9講 災害直後の被災者生活支援の法制度──災害救助法
今回は、被災者がそれぞれの日常生活を取り戻すために、災害が発生した直後から当面の間、被災者の生活を支援する制度と仕組みについて、災害救助法(以下「法」といいます)を中心に述べていきたいと思います。
1 災害救助法の「救助」の意味
最近も、「令和2年7月豪雨」により九州、中部、東北地方で多くの方が被災し、自衛隊などのヘリや車両により助け出されるというニュース映像を目にした方も多いと思います。一般に「災害救助」というと、このような危機迫る災害発生現場からの被災者の救出をイメージする場合が多いと思いますが、「災害救助法」でいう「救助」は、もう少し広い意味で使われています。
すなわち、一定規模以上の災害が発生して法が適用されると、国、自治体、日本赤十字社などが協力して、①避難所、応急仮設住宅の設置、②食品、飲料水の給与、③被服、寝具等の給与、④医療、助産、⑤被災者の救出など、当面の被災者の安全確保、生活支援に関する事項をパッケージとして行うこととされ、これらを包含して法律上は「救助」としています(法4条)。
2 災害救助法の概要
(1)目的と実施主体
災害救助法が制定されたのは、連載第2回でも取り上げたとおり、1946年の昭和南海地震がきっかけでした。それ以前の災害救助法制である罹災(りさい)救助基金法(1899年制定)では、具体の救助活動や単価などのルールがなく、地域ごとに救助内容にバラツキが生じたという問題がありました。
そこで、1947年に災害救助法が制定されました。この法律では、「災害に際して、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助」(法1条)を行うとされ、目的規定上は、国が実施主体とされ、自治体や日本赤十字社などが協力して事務を行うこととされています。しかし、実際には、「救助……は、都道府県知事が、……当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して、これを行う」(法2条)とされ、救助業務の主体は、主に都道府県となります。また、都道府県は、業務を日本赤十字社に委託することができます(法16条)。
国は、被災した都道府県だけでは救助業務が難しい場合の他の都道府県との調整や専門的ノウハウの提供、日本赤十字社への指揮監督などを除くと、都道府県が支弁した費用に対する国庫負担が中心的な役割となります。
(2)適用対象
災害救助法では、対象となる災害種別は、特に規定はありませんが、災害対策基本法(以下「災対法」といいます)2条1項に規定するものと同様の災害とされ(1)、風水害、土砂災害、地震、津波、火山噴火などのほか、大規模火災、大量の放射性物質の放出、大型船の沈没なども含まれます(2)。
また、適用対象の地域は、市町村や都道府県の人口規模に応じて、滅失した世帯数が一定数以上ある災害など、地域において大きな被害をもたらした災害が発生し、現に救助を必要とする住民等がいる地域が適用対象となります。道路等の公共土木施設が大規模に破損しても、救助を要する住民がいなければ対象とはなりません。