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2020.08.25 議会改革

第11回  自治立法における議会・議員の役割─議員提案条例をどう活用するか─

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5 議員提案条例の活性化に向けて

 議員提案条例は、議員が主体となるものであるが、議員一人では行うことはできない。それは、提案には賛成者が必要ということだけでなく(7)、議決には、過半数の賛成が必要であり、執行機関や住民の賛同を得ることも重要となるということでもある。
 したがって、立法は、個人的な思惑や思い付きなどにより行えるもの(行うべきもの)ではなく、問題の所在や課題を明らかにし、どのような対応が必要なのかをしっかりと説明し、理解を得ていくことが必要となる。そのためにも、問題を見分ける嗅覚、想像力、構想力、説明能力などが必要となるのであり、また、その成立のためには、熱意や粘り強さ、タイミング(時の運)、人の輪(和)などが大事となる。条例づくりは決して一筋縄ではいかないのであり、かなりの手間と時間を要することを覚悟すべきである。政治の場で行われるものである以上、政治的・感情的な対立や様々な利害が絡んでくることも少なくない。それらを乗り越えていくためにも、あまり構えすぎず、思い込みすぎず、また独りよがりや安直に陥ることなく、さりとて難しく考えすぎたり、萎縮したりすることなく、しなやかさを備えつつ、条例づくりの苦労や醍醐味(だいごみ)を楽しむ姿勢が大事となってくる。
 何よりも、経験と継続こそが「力」であり、時に失敗しながらも、その反省を糧にしつつ、成功体験などを積み重ね、そのノウハウを継承していくことが大切である。
 議会が民主主義の装置である以上、不完全性や効率的でないところがあることは宿命的といえるのであり、議会に対して批判や不満はつきものである。そのような中で、bestというよりもbetterなものを目指すことが条例づくりのためには現実的・妥当な場合が少なくない。そして、その際には、恣意やおごりを排除し、適度の緊張感と責任感をもち、謙虚かつ柔軟であることなども求められることになってくる。
 しばしば、政治は結果責任だといわれる。しかし、条例の制定においては、結果ももちろん重要であるが、それだけでなくプロセスも重視されなければならない。また、そこでいう結果とは条例の制定そのものではなく、それによりどのような効果が生じたのか、問題解決や自治・住民の福祉の向上にどのくらい役に立ったのかであることはいうまでもない。
 条例は、政治のダイナミズムの中で生まれてくるものであり、政治の状況は変化していくことになる。そのような中でも、議会・議員においては、その役割・責務を自覚して、考えることや論じることをやめない、諦めないことこそ肝要である。

(1) 専決処分条例はその前提を掘り崩しかねないものであり、できる限り抑制的なものとしていくべきである。他方、自治体においては、その活動の根拠となるものとして、国法もあるのであり、その分だけ、自治体議会の正統性付与機能は限定されることになる。
(2) 全国市議会議長会の「市議会の活動に関する実態調査結果(平成30年中)」によれば、市議会における議員提出条例案件数は全市(815)合計で724件、可決が513件であり、平均で1件に満たない状況にある。また、委員会提出条例案件数は全市で268件、可決が262件となっている。
(3) 長野基「自治体議会改革の構造と政策出力」季刊行政管理研究157号(2017年)が、2015年の市町村議会における「政策出力」として議員提案(政策)条例の可決件数の調査結果を示しているが、平均値が0.04、中央値は0という結果であったという。また、福岡市議会調査レポート第15号(2015年9月 福岡市議会事務局)によれば、2002年度から2014年度までの間の政令指定都市における議員提案政策条例の制定件数の状況は、最も多いところがさいたま市・横浜市・名古屋市の13件、次いで福岡市の12件、最も少ないのが千葉市の1件、次いで浜松市・神戸市・熊本市の2件となっている。それをもとに単純に計算すると平均値は5.7件で、1年換算では0.44件となる。ただ、最近の神戸市会のウェブページを見ると、政策条例は2013年1件、2014年2件、2015年1件、2016年2件、2019年5件とされており、逆に福岡市のウェブページによれば2015年以降の政策条例の件数は2にとどまるなど、その制定件数にはそれぞれ波が見られるようである。
(4) この事件では、市長が水道法違反で起訴され、最決平成元年11月8日裁判集民253号399頁が、「水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込であっても、その締結を拒むことは許されない」とし、市長の有罪(罰金10万円)が確定した。
(5) 行政手続法や行政手続条例では、同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、共通してその内容となるべき事項として行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならないものとされ、当該行政指導指針については、パブリックコメントの対象ともされている。要綱の中にはこれに該当するものも少なくない。
(6) 国の議員立法では、委員会提出の場合には、国会審議がほとんど行われないことが少なくなく、議論や情報の不足、とりわけ会議録に提案理由説明以外は何も残らないことになってしまうことが批判されている。
(7) かつては議員一人でも条例案を提出できた時代(1956年の地方自治法改正前)もあった。現在の賛成者要件については、緩和されてきているとはいえ、所与のものではなく、その意義等が問われていくことも必要だろう。

 

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