2020.08.25 議会改革
第11回 自治立法における議会・議員の役割─議員提案条例をどう活用するか─
(3)立法事実や住民の受容可能性の検討を怠らない
条例は、社会に作用するものであり、住民によって受容されるものであることが必要であり、独善的で独りよがりの条例とならないようにしなければならない。
立法事実は、立法の必要性や合理性を支える社会的・経済的・政治的・科学的な事実であり、立法を行うにあたっては、このような立法を行う場合の基礎を形成し、かつ、その必要性・合理性を支える一般的な事実が必要となる。その場合、立法事実には現在の事実だけでなく将来的な事実の予測も含まれるのであり、それについては因果的な形で説明できるものであることが必要となる。
議員提案により条例を制定する場合でも、立法事実の調査・検討・検証がしっかりと行われるようにする必要があるのはいうまでもないことであり、代表の立場を強調し、住民のニーズとか、政治的決断とかを盾にして、それを怠ることは許されない。立案を行う議員による作業はもちろんのこと、必要があれば、議員派遣を行ったり、専門家や関係者を参考人として呼んだり、公聴会を開くことなども考えられる。立法事実に関する資料や情報を執行機関の側がもっている場合には、その提出を要求し、説明を聴取することも必要となる。場合によっては、調査権(100条調査権)の行使が必要となることもあるかもしれない。
その反面、立法事実の把握には時間的・情報的・能力的な限界もあるのであり、その意味では、立法事実の問題は、合理的な説明とその論拠を問うものということができる。立法事実は、議論や審議の過程を通じて認定されていくものであって、プロセスとしての側面をもつ。
他方、立法事実の関係では実効性の問題も当然その射程に含まれることになり、条例は、住民の現実的な要求や法感情などと乖離(かいり)したものとなってはならない。その内容がどんなに理想的なものであっても、住民に受け入れられなければ、それは無意味であるだけでなく、むしろ有害となる。立法に際しては、その内容が、社会一般の人々にどの程度受容され、実現可能であり、継続的な効果をもちうるかということから立法事実を検討し、それを見定めることが必要となるほか、立法の過程や施行までの段階で必要な情報を提供して住民の周知を図り、その理解を得ることなども求められることになる。
(4)住民の参画を工夫し推進する
以上のことからすれば、議員提案条例においては、特に、住民を巻き込み、住民との協働の形をとることができるかが、成否の鍵を握ることにもなってくるといえるだろう。
その検討の過程において、意見交換会・シンポジウム・ワークショップなど住民との協議・議論の場を設けることは、その一つである。議会での調査や審議の場における参考人や公聴会の活用は、いうまでもない。
住民のニーズに即した条例とするためには、請願の適切な処理や活用、条例の制定改廃の直接請求への適切な対応や活用なども考慮されるべきである。
また、議員による条例づくりにおいても、パブリックコメントを活用することも考えられる。パブリックコメントは、制度がなければできないというものではなく、議員としても、その判断によりインターネットなどを通じて行うことはもちろん可能である。ただし、パブリックコメントは公正かつ適切に行われることが必要不可欠であり、そのプロセスの透明性が確保されるとともに、それにより出された意見についてはきちんと検討し、これに対する対応等についても公表することが求められる。いやしくも、パブリックコメントを形式的に行うだけのアリバイづくりを目的としたり、動員を図ることでその結果を操作したりするようなことは、不適切であるだけでなく、条例の正当性が疑われ、信頼を失うことにもなりかねない。
このほか、議会において、政策提案制度や議会サポーターを導入し、条例づくりのきっかけとしたり、住民の知識の活用を図ったりすることなども考えられる。
(5)法的な面などのサポートをどうするか
ICTの発達等により、条例の情報や作成のノウハウ等が容易に入手できる時代となり、条例案の作成、特に条文を書くことのハードルはかなり下がってきているが、それでも、条例づくりにおいて、法的な視点・検討、専門性の導入等は不可避・不可欠であり、それをおろそかにしたり軽視したりすることのないようにすべきである。
法務や専門性の面では、執行機関の職員のほか、外部有識者、シンクタンク等の活用や、大学等の研究機関の支援を受けるための連携などが考えられる。
また、その補佐体制として、議会の事務局や職員の強化を図ることも必要であるが、小規模の自治体のように定員や人的資源の面で限界がある場合には、他の自治体との共同設置なども一考に値するのではないかと思われる。
議員立法に関する様々なネットワークをつくり、情報やノウハウの共有化や相互支援を図ることも重要である。
以上のようなサポートの仕組みの工夫・整備を行っていくことは、議員提案条例の適切かつ継続的な取組みを行っていく上で重要な資源となるといえるだろう。